Twitterである方からメッセージいただき、この記事を書こうと思いました。
アルコール依存症は否認の病と呼ばれますが、実際に私は長い間、アルコール依存症を否認していました。
自分の酒での成功体験が邪魔をしていたのです。
正直に言うと、私が現在取り組んでいる減酒治療、つまり、この期に及んでまだ酒と縁が切れていない理由の一つに、過去の成功体験が挙げられます。
それほどまでに、成功体験というのは手放しにくいものだと思います。
数々の成功体験
本当に酒のおかげだったのかどうかはわかりませんが、少なくとも酒が入った状態で上手くいったことは、数え切れないほど多くあります。
大学時代、酒を通して多くの友人ができました。
友人との飲み会は、しょうもない話ばかりでしたが、たくさんの笑いを取り、気持ちいい思いをたくさんしました。
ツッコミも冴え渡り、他の人のトークに調子良く合いの手を入れ、盛り上げのサポートをすることが得意でした。
一人でカウンターで酒を飲んでいれば、すぐに店員さんや周りのお客さんと仲良くなりました。
そのおかげで、忘年会やコンパなど、店選びに困ることはなく、周りからは顔の広さを羨ましがられました。
また、一人飲みの際には歳の離れた大人の方と知り合う機会が多く、飲みの席での振る舞いは、歳のわりにはよく出来ていたと思います。
大学院に入り、宴会の幹事をした際には、先生方に褒められ、それ以降、宴会はいつも任されるようになりました。
そういった経験は、就職活動のエピソードとしても利用でき、就職活動は満足のいく形で終えました。
社会人になっても、酒を通して上司や先輩とすぐに親しくなり、そういった仕事外での関係性の構築により、自分自身の仕事も進めやすくなりました。
キャバクラ等の所謂「夜の店」にも詳しくなり、夜の女の子の知り合いも多かったですし、取引先を接待する上でも重宝されました。
酒が絡んだ遊びに糸目を付けず金を使う私は、宵越しの金を持たない破天荒な江戸っ子キャラとして、「面白いやつだ」という評判を呼び、社内で人気者になりました。
一旦休憩
前述したことすべて、今思えば本当にちっぽけなことばかりです。
すべて私目線で書きましたが、周りは私を、本当はどういう目で見ていたのでしょうか。
かつての自分の誇りをこのように晒すのは恥ずかしいですね。
数々の失敗
一方で、失敗も多くありました。
ヘロヘロになった私を家まで送り届けてくれた友人は数多くいます。
心配して「もう帰ろう」と言ってくれた友人に対して、私は暴言を吐きました。
帰りの電車の中で、焼酎瓶を片手に見知らぬ人に絡んだ結果、友人がいなければ警察沙汰だったこともあります。
実際に、タクシーで警察沙汰になったこともありました。
別の話ですが、良くお世話になっている店で、酔っ払った初対面のお客さんと言い争いになったこともあります。
その後、店のトイレで眠ってしまい、ひどく迷惑をかけました。
そして、恥ずかしくて、その店にはもう二度と行かなくなりました。
それ以外にも「避けている店」が数え切れないほどあります。
一回り以上歳の離れた仲の良い先輩を自宅に招いた際にも、酒に飲まれた結果、その先輩を「おまえ」呼ばわりしてしまいました。
会社への遅刻は数しれず。入社一年目で始末書を書く始末です。
酔った状態で、父と殴り合いの喧嘩になったこともあります。
気がおさまらぬまま、ゴルフクラブを片手に、車のボンネットにあがり、近所に恥を晒したこともあります。
八つ当たりで家の壁を蹴り、穴をあけたこともあります。
酔っ払って帰宅することができず、心配した母に車で迎えに来てもらったことが、社会人になってからも数え切れないほどあります。
警察に家まで送り届けられた際には、私の代わりに妻が何度も何度も頭を下げていました。
そうした妻に暴言を吐き、暴力を奮ったこともありました。
これらはほんの一部の失敗ですが、細かく言い出すと切りがありません。
それでも否認する
あぁ…情けない…
ですが、これほど数々の失敗をおかしていながらも、自分の成功体験は未だに忘れられません。
今書き出してみて改めて気づいたのですが、成功よりも失敗の体験の方がスラスラ書けました。
つまり、失敗のほうが多いのでしょう。
それでも、成功体験にすがってしまいます。
仕事でプレゼンをする際などは、「絶対に自分は上手くいく!あのときも上手くやれたんだから!」と過去の似たような成功体験を思い出し、自分を奮起させて臨んだりしますが、アルコール依存症はまるで逆です。
成功体験は忘れなければなりません。
失敗にこそ、着目しなければなりません。
そして、本当に最近気づいたのですが、多くの方は、酒で記憶をなくしたことがありません。
記憶をなくしたことが複数回ある時点で、割と黄信号な気がします。
私の場合は、飲み会の場でしか飲まないことと、いくつかある成功体験から、アルコール依存症であることを認めるのが随分遅くなってしまいました。
この文章を最後まで読んでくださった方が、もしアルコール依存症外来の受診を迷っておられるのであれば、成功体験は一度忘れて、失敗を見つめ直す機会にしてくだされば幸いです。