アルコール依存症患者が断酒をすると、精神的依存・身体的依存の2種類を原因とする離脱症状が起こります。
離脱症状はいつまで続くのでしょうか?
離脱症状が起こらないようにする対策は?
薬物療法で離脱症状は治まるのか?
今回は、断酒によって発生する離脱症状の症状や期間、離脱症状への具体的な対策や、薬物療法に潜む落とし穴といったことについてまで詳しく解説していきたいと思います。
目次
再飲酒の原因!断酒を妨げる離脱症状とは?
離脱症状とは、アルコールやニコチン、薬物などに含まれる依存性物質を長期的に摂取し続けた人が依存性物質の摂取を急にやめると起こる禁断症状のことです。
この離脱症状は患者に形成される2種類の依存によって症状が分かれており、精神的依存からくるものと身体的依存からくるものの2種類の離脱症状があります。
離脱症状の話をする前に、この2種類の依存について簡単に解説します。
- 精神的依存
– 精神に形成される依存で、依存性物質を病的なほど渇望するようになる。身体的依存よりも前に形成される。 - 身体的依存
– 身体に形成される依存で、依存性物質の摂取をやめると症状が発生する。精神的依存よりも後に形成される。
この2種類の依存が形成されているアルコール依存症患者が断酒をすると、これらが要因の離脱症状が発生します。
精神的依存を原因とした離脱症状
精神的依存を原因とした離脱症状は具体的に下記のようなものが挙げられます。
- イライラ感
- 焦燥感
- 不安感
- 孤独感
- 虚無感
- アルコールへの病的な渇望
– どんな手段を使ってでもアルコールを手に入れようとする
– アルコールを手に入れるために頻繁に嘘をつく
イライラ感や焦燥感は精神的な依存で起こる離脱症状としてイメージしやすいかと思いますが、他にも
「酒を飲めない自分はダメな自分だ」
「酒を飲めることぐらいしか取り柄がない」
といった虚無感や孤独感に苛まれることも少なくありません。
また、アルコールへの病的な渇望は、悪化すると飲酒運転やアルコール飲料の窃盗といった犯罪行為にまで及ぶことがあります。
さらに、依存性物質であるアルコールを取り上げられることの恐怖から、取り上げられないように酒を飲んでいることを隠したり、飲んでいるのに「飲んでいない」と頻繁に嘘をつくようになります。
身体的依存を原因とした離脱症状
身体的依存を原因とした離脱症状は具体的に下記のようなものが挙げられます。
- 寝汗
- 不眠
- 異常な眠気
- 下痢
- 便秘
- 頭痛
- 手足の震え
- 全身の皮膚のかゆみ(患者によっては皮膚に赤い斑点ができる)
- 顔や手足のむくみ
- 悪寒
- 嘔吐、もしくは吐き気を催すような咳
- うつ症状
- 幻聴・幻覚 など
不眠と異常な眠気、下痢と便秘といった真逆の症状が起こることに「あれ?」と思われた方もいるでしょう。
これはアルコールによって前者は自律神経(交感神経・副交感神経)が、後者は腸内環境が乱れているためです。
また、うつ症状は一見、精神的依存の方に思えますが、実はうつ症状は肝機能が低下すると起こります。
そのため、断酒をしてから肝機能が回復するまでの間はうつ症状が発生します。
このうつ症状は肝機能が回復してしまえば改善されるので、一般的な精神疾患であるうつ病とは異なります。
これらの身体的依存による離脱症状は、2週間~1ヶ月ほどで治まります。
ただし、腸内環境や肝臓などの消化器官の回復には数ヶ月を要する場合があります。
精神的依存は断酒の大敵
精神的依存からくる離脱症状の厄介な点は、なかなか治ってくれないということです。
身体的依存は身体が治れば治まりますが、精神的依存は十年以上たっても治まらないことがあります。
実際に、断酒を10年以上していたアルコール依存症患者の方で、ほんの少し沸き起こった飲酒欲求でアルコールを口にしてしまい、アルコール依存症が再発してしまったという例があります。
一口でも飲めば再発してしまうと、何度も肝に銘じておいたにもかかわらず、飲酒欲求を抑えることができなかったのです。
しかも、精神的依存は目に見える形で回復してくれません。
そのため、自分が回復しているのか分からず、モチベーションが上がらないという問題点もあります。

離脱症状への対策
これらの離脱症状には対策があります。
実際にアルコール依存症で入院された小石さんの体験談をもとに、離脱症状への具体的な対策をいくつかご紹介します。
飲酒欲求スイッチが入りやすくなるタイミングを自己分析する
アルコール依存症患者の飲酒には一定のパターンがあります。
仕事前の飲酒。飲み会でのはしご酒。何かを達成したときの打ち上げ。帰宅後の晩酌。休日の暇つぶし。
人によって「時間・場所・スイッチが入りやすいもの」が違います。
スイッチが入りやすいものとは、これを見ると途端に飲酒欲求が湧き上がってくるというものです。
具体的には酒に関するCMや、居酒屋の店先に吊るされている赤い提灯などがあります。
小石さんの場合は以下のパターンがありました。
- 時間
夜(22~24時) - 場所
人目がないプライベートな空間(自室など)
※居酒屋の個室のような公の場では自制が効く - スイッチが入りやすいもの
お酒に合いそうなおいしそうな料理の写真
私のパターンも紹介します。
- 時間
夜(仕事後。平日19時~) - 場所
居酒屋、バー等
※自宅では飲まない - スイッチが入りやすいもの
何かをやり遂げた後の開放感や達成感
よく一緒に酒を飲んでいた人
3つの飲酒欲求のスイッチが分かると、自分のレッドゾーン(暴走しやすいタイミング)が把握できるため、あらかじめ対策を立てることができます。
皆さんの飲酒欲求スイッチはどのようなものでしょうか?
ぜひ一度自己分析してみてください。
とはいえ、自己分析をしていても、スイッチが入り、スリップしてしまうことだってあります。
その際にも、「なぜ失敗したのか?」を自己分析することがとても重要だと思います。
失敗したときこそ、自分の飲酒欲求スイッチを具体的に知ることができるチャンスです。
私もやっています。


自助グループへの参加
自助グループに参加しているメンバーのほとんどは、離脱症状の体験者です。
自助グループのメンバーに離脱症状への対策を聞くというのも手段の一つとしておすすめです。
ただし、それが確実に自分にあっているとは限らないので、あくまでそれを参考として、自分に合った対策を模索するといいでしょう。

薬物療法
離脱症状を抑える手段として、最も一般的なのは薬物療法です。
- 抗酒剤(シアナマイド、ノックビン)
- 抗不安薬(ベンゾジアゼピン系など)
- 睡眠導入剤
これらの薬物は、離脱症状を一時的に抑える手段として有効です。
薬物療法は有効ではあるものの、永遠と薬物療法に頼っていてはお金もかかりますし、逆に薬による身体への悪影響も心配です。
小石さんと私の薬物療法については、過去の記事を参考にしてください。


ベンゾジアゼピン系薬に潜む危険性
抗不安薬としてよく使用されるベンゾジアゼピン系ですが、この薬は依存性が強く、使い方によってはアルコールに代わる依存性物質になってしまう恐れがあります。
ベンゾジアゼピン系薬には即効性があり、効果実感性も高く、患者の不安を速やかに除去してくれるという点では優れています。
短期間であれば、不安感や緊張を和らげるためにベンゾジアゼピン系薬を使用するのは有効です。
しかし、長期間使用し続ければ、ベンゾジアゼピン系薬による身体的依存が形成されてしまいます。
アルコール依存症の治療をするための薬物療法で、別の依存が形成されてしまっては本末転倒です。
とはいえ、自己判断の断薬・減薬は大変危険です。
医師と相談しながら別の依存性の低い薬に変更してもらうか、薬がなくても生活できるよう少しずつでいいので自立していくことが重要です。
まとめ
離脱症状を抑えるのに最も有効な手段は、酒以外の良いものに依存対象を移してしまうことです。
スポーツ、アウトドア、読書、料理といったほかの趣味に目を向けてみましょう。
私の場合は、このようにWEBサイトを作ることが酒と距離を置いてからの新たな趣味になりました。
「いや、自分の趣味は酒だ」
「酒豪であることが自分の取り柄だったのに」
そんなふうに思っていても、アルコール依存症という呪いを受けてしまった患者は、もう気持ちよく酒を飲める世界には戻れません。
もはや、なってしまったものはしかたがない。
完治しないのであれば潔く諦めて、いっそのこと、これを機に、新しい自分を新規開拓するのも悪くありません。
「アルコールがない世界というのも悪くない」
そう思える日を夢見てみましょう。
過去の記事では、アルコール依存症を初期・中期・末期に分類し、それぞれの離脱症状についてより具体的に説明しています。
興味のある方はどうぞ。


