このページではアルコール依存症の末期症状を解説します。
アルコール依存症の末期とは?
アルコール依存症末期は、文字通り、アルコール依存症患者が行き着く先、終着点です。
治療をせずにそのまま飲酒を続けていると、身体がボロボロになってしまい、酒をもう飲めない身体になってしまいます。
それでも飲酒欲求はおさまらず、身体が受け付けないのに無理に飲もうとするため、飲んでは嘔吐を繰り返します。
末期の患者はすでに家庭・仕事・社会的信用の全てを失っているケースが多く、患者自身も絶望して「何もかもどうでもいい」といった無気力状態に陥っています。
しかし、ひとたびアルコールが体内に入れば、人が変わったかのように陽気になったり、攻撃的になったりします。
小石さんが入院していた病院では、末期の患者が入院する際は普通の病室ではなく、PICU(Psychiatry Intensive Care Unit)という精神病集中治療室で集中治療を施されます。
末期患者の離脱症状はかなり重く、幻覚・幻聴、見当識障害(時間や場所、人物の見当がつかなくなること)、興奮といった症状が起こります。
酷い場合だと、患者が暴れて治療する側の医師や看護師が怪我をしてしまう恐れがあるため、やむを得ず拘束具を使用する場合もあるそうです。
小石さんの入院中に担当をしていた看護師さんは、20年近く働く中で2度、そういった末期患者と出会ったことがあるらしいです。
末期患者は飲酒をするための行動力もすさまじく、入院をしていても看護師の隙をついて脱走したり、外泊中に酒を病院に持ち込もうとしたり、飲酒への執念深い欲求に突き動かされてしまいます。
末期でよく見られる行動
アルコール依存症末期では、自分自身の病状悪化から患者自身が治療することを諦めてしまっているケースが見受けられます。
- すでに自分の人生を諦めている
- 「もう終わりだ」「今さら断酒をしても意味がない」と無気力になる
- 仕事や家庭など、人間関係の全てを失って絶望している
- 身体的疾患が重いため飲酒ができないにも関わらず、飲酒をやめられない
- 入退院を繰り返す
- 入院中に外部から酒を持ち込もうとする
- 入院中に脱走する
「こんなボロボロの身体では治療をしても仕方がない」
これが小石さんとともに入院していた末期患者の口癖だったといいます。
末期患者の多くは大切なもの全てを失い、悲観的な感情が強い傾向にあります。
それでも飲酒欲求がおさまる訳ではないので、入院中でもあの手この手で酒を飲もうとします。
小石さんは入院中に、末期の患者から様々な話を聞いたと言います。
「厳しい監視下に置かれているにもかかわらず、水のペットボトルに焼酎を入れて病院に持ち込もうとした」
「隙をついて脱走し、20km近く離れた場所まで徒歩で逃げた」
「抗酒剤を飲んだ後に飲酒をし、救急搬送されたことが数回ある」
「入院するのが7回目」
「あまりにも脱走するので、山中の孤立した精神病院に移送された」
こういった話を聞いた小石さんは、「完全にアルコールに脳を支配されている。ここまでくると患者に飲酒欲求以外の、本来の人としての意思が残っているのかどうかも分からない」と心底ゾッとしたらしいです。
また、周囲に支えてくれる人もおらず、孤独感や虚無感にさいなまれ、酒を手放すことができない患者も多いです。
自分の存在価値を見出せず、「酒を飲んで死ぬならそれでいい」と自棄になってしまっているケースも見受けられます。
末期の具体的な症状
末期になると、内臓系の疾患だけでなく神経系の疾患がみられるようになり、仕事はもちろん日常生活を送ることすらできなくなってきます。
重篤な内臓疾患
具体的な疾患には以下のものがあります。
- 肝硬変
- 慢性膵炎
- アルコール心筋症
- マロリー・ワイス症候群
- がん(肝臓がん、食道がん、乳がん、大腸がんなど)
黄疸(目の白目部分や皮膚が黄色くなる)、腹水(お腹に水が溜まり、カエルのようにポッコリとお腹が出る)、浮腫(手足がむくむ)といった症状が出るようになります。
また、脳出血や心筋梗塞、食道動脈瘤破裂といった致命的な疾患を起して死に至るケースもあります。
神経系の疾患による運動・記憶障害
神経系の疾患により歩行障害、言語障害、四肢の麻痺、視覚障害など、「見る・話す・歩く」といった日常生活に不可欠な行動すら満足にできなくなります。
その他にもアルコールの長期利用のせいで脳が委縮してしまい、新しいことを覚える、過去の出来事を思い出せなくなるといった記憶障害を引き起こすケースもみられます。
具体的な疾患は以下の通りです。
- ウェルニッケ脳症
- コルサコフ症候群
- アルコール性認知症
- アルコール小脳変性症
- 中心性橋髄鞘融解
- 多発性神経炎
これら以外にも大腿骨骨頭壊死による歩行困難、免疫力・抵抗力の低下などの症状もみられます。

末期の離脱症状
末期の離脱症状は後期離脱症状群とも呼ばれ、酒を断ってから2~3日目に発生します。
大抵は3日ほどでおさまりますが、酷い場合は3か月間近く続くことがあります。
主な症状は重い幻覚・幻聴、見当識障害(時間や場所、人物の見当がつかなくなること)、興奮などです。
離脱症状の際に患者が暴れる場合があり、そういった場合はPICU(精神病集中治療室)で集中治療を受けることになります。
患者の興奮状態によってはやむを得ず拘束具を使用することもあります。
離脱症状が起こっている際は基本的に会話が通じません。
飲食すら受け付けない場合もあるため、点滴による投薬やビタミン剤の投与といった処置を取ることが多いです。

末期の心理状態
飲酒欲求はおさまっていませんが、すでに身体がボロボロなので、大量の酒は飲めない状態です。
それでも自分自身の人生への絶望、無気力感、孤独感、といった悲観的な感情から酒を飲もうとします。
患者によっては、このような状態に陥っても自分自身がアルコール依存症であることを認めません。
また、自分自身の病状悪化から健康な状態に回復した自分を想像できず、「ここまで悪くなったら何をやっても無駄だ」と治療に対して否定的な患者もいます。
小石さんのいた病院では、治療プログラムを受けても断酒をすると決意した末期患者は一人もいませんでした。
むしろ、「ここまできたら、もう酒をやめるのは無理だよ」と諦めてしまっている人がほとんどだったようです。
末期での治療法
末期からの治療は断酒以外にありません。
入院して断酒を行い、アルコールによるダメージを受けた身体疾患の治療を中心に行うのが一般的です。
初期・中期よりダメージが大きい分、アルコールを完全に体内から排出するのにも時間がかかります。
がんや肝硬変などの重篤な疾患を患っている場合は、依存症の治療より身体疾患の治療を優先するケースもあります。
依存症は回復する病気
末期の患者は自分自身の未来への絶望感から悲観的な人が多いですが、アルコール依存症は回復する病気です。
完治できないという意味では、高血圧や糖尿病も同じ。
病気になっても適切な治療を受けさえすれば、生きていけます。
実際にアルコール依存症末期患者であったにもかかわらず、懸命な治療と本人の努力により、自助グループの会長として80歳を超えても活動を続けられた方もいます。
とはいえ、末期の治療には周囲のサポートが必要不可欠です。
患者の周囲にいる人はまず、依存症の治療を行っている専門病院に相談をしてみましょう。

