アルコール依存症になると、どのような症状が現れるのでしょうか。
このページでは、アルコール依存症という病気を知っていただくべく、その症状を解説しながら、アルコール依存症の全体像を把握していただきます。
アルコール依存症は病気なのか?
アルコール依存症患者は普通の酒飲みの人と外見上の違いがほとんどありません。
そのため、周囲からは「病気のせいじゃなくてだらしがないだけでは?」「意志が弱いんじゃないか」といった誤解を受けやすい病気です。
しかし、アルコール依存症は飲酒に対してのコントロールが効かなくなる、れっきとした病気です。
そして、連続飲酒を長期間続ければ、 どんな人にも発症するリスクがあります。

アルコール依存症になると飲酒量の制御が効かなくなります。
酔いつぶれるまで飲んでしまう
周囲の状況や人にはばかることなく飲むことに執着するようになります。
これは脳の神経回路がおかしくなっているために起こるものです。
一度おかしくなってしまった脳は容易には治らず、治療のため断酒(飲酒を一切絶つこと)を数十年していても、一滴でも酒を口にしてしまえばアルコール依存症が再発します。
アルコール依存症になったら、二度と「普通の酒飲み」には戻れません。
そして、アルコール依存症は完治することはありません。
飲酒欲求と死ぬまで戦い続けなければならない、恐ろしい病気なのです。
アルコール依存症になるとどうなるのか?
アルコールを数年にわたって毎日習慣的に摂取し続けると、脳の神経回路が麻痺し、耐性ができて通常の飲酒量では酔えなくなってきます。
また、酔ったときに感じる快感(ふわふわとして気分が良いと感じる状態)を感じにくくなり、もう一度あの快感を味わいたいという欲求が強くなります。
こうして飲酒量がだんだんと増えていき、最終的に自分で飲酒欲求をコントロールできなくなってしまうのです。
飲酒量・飲むタイミング・周囲の状況をはばかることなく酔いつぶれるまで飲んでしまうようになり、家庭・友人・職場などの、あらゆる人間関係が崩壊していきます。
こうして、周囲の人を巻き込みながら破滅していき、適切な対応策をとらなければ、最終的に死に至るのです。
アルコール依存症で入院した人の多くは、30歳前後で発病し、30代のうちはアルコールによる内臓疾患により内科を受診します。
40代になると精神科に入院するようになり、50代で死亡するケースが多いといわれています。
アルコール依存症治療を専門とする病院が入院中の患者を調査した結果、アルコール依存症患者の平均寿命は約52歳という報告もあります。
アルコール依存症の具体的な症状
アルコール依存症の症状には、外見上にはっきりと表れる変化と、ぱっと見ただけではよく分からない見えない変化の2種類があります。
外見上の変化は中期から末期にかけて、症状が悪化した場合に顕著にみられるようになります。
脳・神経系、内臓系の疾患は内科や精神科といった医療機関で検査しなければ判断できませんが、初期段階で内科を受診した場合、アルコール依存症ではなく胃潰瘍、脂肪肝、糖尿病として診断されることがあります。
このような場合、医師からは酒を控える指示があっても、アルコールを原因とした断酒は指示されないことが多いです。
そのため、自分がアルコール依存症であると気付かず「ちょっと酒を控えればいい」「少し不摂生だったせいだ」と軽く考えてしまい、早期発見が遅れてしまう恐れがあります。
幸い早期発見ができ、アルコール依存症の初期段階で入院することになった小石さんには、以下のような症状がありました。
- 常に頭にもやがかかったような感覚がある
- 頭痛
- 物を持つと手が震える
- 全身の皮膚に針で刺されたようなぴりっとした痛み・かゆみがある
- 酷い吐き気
- 嘔吐するような咳が出る
- 食欲がない
- 便秘・下痢
- 暑くないのに汗が出る
- 酔いがさめたときにうつ状態になる
- 2時間以上の睡眠がとれない(不眠)
- 手や腕に赤いぽつぽつとした斑点がみられる
また、小石さんと一緒に治療プログラムに参加されたアルコール依存症患者の多くは中期・末期の方々でしたが、その方々にも見られたアルコール依存症の症状と、依存症患者が発症する可能性のある病気について、各部位ごとに簡単に紹介します。
脳・神経系
脳・神経系障害は初期の段階ではほとんど分かりません。
初期では主に手足の震えやめまい、立ちくらみ、頭痛といった軽い症状がみられます。
これらが末期になると、重篤な神経障害であるウェルニッケ脳症、コルサコフ症候群、アルコール小脳変性症、多発神経炎、中心性橋髄鞘融解などを発症します。
これらの発症は依存症中期以降であることが多く、歩行障害や眼球が震える、言語障害、記憶障害などを引き起こして最悪の場合、死に至ります。
内臓系
内臓系へのダメージは脳・神経系のダメージよりも早く顕著に現れます。
まず、嘔吐や食欲がなくなるといった症状が出始め、次第に胃潰瘍、肝硬変、急性膵炎、場合によっては癌を患うこともあります。
また、内臓をやられると吸収障害や便秘・下痢になりやすく、酷い場合は血便やビタミン不足による栄養障害を発症します。
外見上の変化
飲酒すると、全身の血液がうっ血するため顔がむくみます。
そして、肝臓が悪くなると黄疸といって皮膚の色が次第に黄色くなっていきます。
実際に入院した小石さんによると、アルコール依存症患者の半数以上が浅黒い肌をしており、末期の方だと眼球までも黄みがかっていたとのことです。
また、依存症患者には、手掌紅斑といって腕や手の平などに赤いぽつぽつがみられていたようです。
アルコール依存症の治療法
アルコール依存症は入院や通院で治療します。
ステージが軽い段階であれば、定期的な通院をしつつ、医師の指示に従って治療を進めていきます。
治療についてはまた別の記事で詳しく解説しますので、興味のある方は是非のぞいてみてください。(リンク予定)
治療するにあたり、まずは外部の人が介入してアルコール依存症患者の飲酒量をコントロールする必要があります。
その際にとられる方法には、断酒と減酒の2パターンがあります。

断酒
断酒は酒を一切絶つことであり、一滴も飲んではいけません。
断酒する場合は、抗酒剤というアセトアルデヒドの分解を阻害する薬を飲みます。
この薬を飲んだ状態で飲酒をすると、酒に含まれるアセトアルデヒドが分解できず、動悸、吐き気、めまい、血圧低下などが起こります。
酷い場合だとけいれんや失神することもあり、実際に小石さんのいた病院では抗酒剤を飲んだ後に飲酒をして緊急搬送された人もいたようです。
こうして「飲酒をしてもデメリットしかない」という状況をわざと作り出し、依存症患者の飲酒を食い止めます。
抗酒剤にはシアナマイドという無色透明な液体薬と、ノックビンという黄白色の粉末薬があります。
どちらも副作用が少なく、飲酒を続けることに比べると、ずっと体に良い薬です。

減酒
減酒では、医師と患者の間で決めた純アルコール量以下の酒を飲むことは許されますが、通院と飲酒量の記録をしなければなりません。
減酒の場合にはセリンクロという飲酒欲求を抑える薬を服用します。
酒を飲む(可能性のある)タイミングの1~2時間前から服用し、その後に飲酒量・飲んだ時の状況・服薬状況の記録を取ります。
記録方法は小冊子とアプリの2種類があり、アプリ「減酒にっき」は記録する手間がかからない点や、医師や家族とも共有することができる点から近年評判になっています。

離脱症状とは
離脱症状はアルコールを連続摂取していた人(アルコール依存症患者)が摂取をやめた時に起こる禁断症状です。
禁断症状が起こると以下のような不快な症状が起こります。
- 手の震え
- めまい
- 動悸
- 汗を大量にかく
- 吐き気・嘔吐
- イライラする
- 不安感
- 不眠
- うつ状態
アルコール依存症患者はこういった不快な症状から逃れるために、さらに飲酒をしようとします。
これは脳がアルコール摂取によって得られる快楽に麻痺し、快楽を得ている状態が普通の状態と勘違いしてしまうために起こります。
患者が酒をやめてしまうと、脳はこれを異常事態ととらえ、不快な症状を出して患者に飲酒をさせようと働きかけるのです。
離脱症状については別の記事でも詳しくまとめていますので、興味のある方はこちらからどうぞ。

身を滅ぼす不治の病
アルコール依存症は患者本人だけに留まる病気ではありません。
感染こそしないものの、家族、友人、職場といった周囲の人間を巻き込みながら、盛大に破滅していく病気です。
進行性の慢性病であるアルコール依存症は、治療したとしても完治するわけではありません。
身体的な症状は改善されても、脳の機能はほとんど改善されないのです。
つまり一度治療をおこなって回復しても、飲酒を再開すれば再発してしまうのです。
再発した場合、アルコールによる脳の支配は治療前のところから進行していきます。
このように、完治しない病気という意味で、アルコール依存症に限らず全ての依存症は不治の病と呼ばれています。
一度失った脳のコントロール機能はもう戻りません。
アルコール依存症はそれほどまでに恐ろしい病気なのです。

