アルコール依存症の治療を検討している方で、断酒という言葉を耳にしたことのある方は多いのではないでしょうか?
断酒は禁酒と言葉が似ていますが、実際の意味は全く違います。
この記事では断酒とは何なのか、断酒の効果や成功と失敗の考え方(成功率)、断酒の難しさなどについて解説します。
そもそも断酒って何?禁酒との違い
断酒と禁酒は言葉は似ているようですが、意味は全く違います。
デジタル大辞泉を含む4種類の辞書を調べてみたところ、以下のような意味が記載されています。
- 断酒
– 自らの意思で一切の酒を断つこと - 禁酒
– 酒を飲んでいた人が酒をやめること
– 酒を飲むことを禁ずること
断酒と禁酒が混同されやすいのは「酒を飲むのをやめる」という意味で共通しているためです。
しかし、断酒と禁酒には決定的な違いがあります。
それは、断酒は自らの意思で酒をやめるのに対し、禁酒は他者から強制されて酒をやめる点です。
この「自らの意思」で酒を飲むのをやめるというのが重要なのです。
断酒の身体への良い効果
断酒をすると身体機能が徐々に回復していきます。
特に毎日酒を飲む生活をしていた人の場合、1週間断酒(禁酒)するだけで顕著な身体への良い効果が表れます。
実際、4年間連続飲酒を続けていた20代前半の女性が3週間断酒(禁酒)を行うと、以下のような変化がみられました。
- むくみが取れて顔が小さくなる(小顔効果)
- 体重が減る(ダイエット効果)
- 肌の状態が良くなる(ニキビの減少、乾燥肌が改善)
- 体臭が改善される
- 吐き気や嘔吐を催すような咳が出なくなる
- 血圧や肝臓の数値が正常に戻る
- 食欲増進
- 記憶力が良くなる
- 階段を上っても息切れしなくなる
- 朝までぐっすりと眠れるようになる
- 寝汗がなくなる
- 寝起きが良くなる
断酒の効果については、別の記事でも詳しくまとめています。

このように、断酒は最終的には身体に良い影響がありますが、そこに至るには関門があります。
断酒による離脱症状
アルコール依存症、もしくは依存症の一歩手前であるプレアルコホリック(アルコール使用障害)に陥ってしまった人が断酒(禁酒)をおこなうと、離脱症状というツラい症状に襲われます。
離脱症状は、軽度の人であれば頭痛や不眠、便秘、不安感などで済みますが、アルコール依存症中期以降の人だと幻覚・幻聴症状が起こる場合もあります。
アルコール依存症の各ステージごとの離脱症状については、別の記事にしていますので参考にしてください。



離脱症状はツラいですが、とはいえ、これらの離脱症状は急性の症状なので3日間ほどでおさまります。
また、便秘や肌荒れなど内臓系が原因の症状はすぐには改善されませんが、酒を飲むのをやめてから1ヶ月ほどで改善されるケースが多いです。
こちらの記事も参考にしてください。

断酒を自力で行うのはかなり困難
普通の人(=アルコール依存症でない人)であれば、自らの意思で酒をやめることは簡単でしょう。
しかし、アルコール依存症患者にとって断酒は極めて困難です。
この理由についての詳細は「アルコール依存症の症状概要」で紹介しているので省きますが、アルコールにより脳の神経回路が麻痺してしまった患者は、飲酒欲求が凄まじく強いことが原因です。

どのぐらい強いかというと、家庭崩壊や解雇の危機に直面しても患者は酒を飲むのをやめようとはしません。
それほどに追い詰められても、アルコール依存症患者は酒を手放すことができないのです。
これはもはや患者の意思が弱いからではなく、アルコールにより脳が傷害されているためです。
脳が傷害された患者は飲酒コントロールが効きません。
そのためほどほどに飲むことができず、酔いつぶれるまで飲むことになります。
そんな人が「自らの意思」で酒を断つことができるでしょうか?
極めて難しいでしょう。
断酒は脳のコントロールを失った依存症患者にとって、試練とも思えるほど厳しいものなのです。
一滴でも飲んだら失敗?断酒の成功率は?
断酒を自力で行うのが極めて困難であることは、読者の皆さんには分かっていただけたかと思います。
では、断酒はどうすれば成功するのでしょうか?
一滴でも飲んでしまったら断酒は失敗なのでしょうか?
断酒の成功とは、失敗した(再飲酒してしまった)回数で判断するものではなく、死ぬ間際に自分の人生が心から満足できるものだ感じられるかどうかで決まるものだと、私は思います。
断酒は減点方式で失敗した数を数えて合格・不合格を出す試験のようなものではありません。
断酒に成功したかどうかの判断は、一時的な失敗をその都度採点するのではなく、人生の最期に採点をおこなった結果得られるものだと考えます。
大事なのは飲んだ・飲まないということではなく、酒に自分の人生を食いつぶされていないかです。
もし断酒を決意した後、一度も飲酒しなければ、もちろんこれは「成功」でしょう。
断酒を決意した後に再飲酒してしまったら、「その時点では失敗」です。
しかし、そこで治療を諦めずに再び断酒に挑戦し、人生の最期に振り返って満足できる生活だと思えたら、失敗した過去なんて関係ありません。
あなたの断酒の人生は成功だと、私は思います。
断酒の成功は人生の最期に決まるとすると、成功率は語ることはできません。
亡くなった方からアンケートを取ることはできないからです。

断酒の難しさ
失敗を恐れる必要はありませんが、一方で断酒が難しいのも事実です。
アルコール依存症という病気は色んなものを破壊していきます。
家庭、友人関係、社会的信用。
アルコール依存症はありとあらゆるものを壊し、患者を孤独にしていきます。
迷惑をかけた人からは、アルコール依存症になったのは自業自得、自己責任と批判され、縁が切れてしまうこともあるでしょう。
また、アルコール依存症は糖尿病や高血圧と同じく、一度なってしまえば完治しません。
一生、身体に有害なアルコールを控えながら生きていかねばなりません。
だからこそ、アルコール依存症患者はアルコールを一切絶つ断酒をおこないます。
ましてや、アルコール依存症患者は脳を傷害されているため、飲酒コントロールが効きません。
孤独なままに、一生治らない病気と戦い続けなければならないと考えると、その難しさは想像に容易いかと思います。
しかし、絶望する必要は全くありません。
支えてくれる医師は必ず存在しますし、同じようにアルコール依存症と戦う仲間は存在します。
また、世の中にはアルコール依存症と戦う仲間が集まる断酒会というものが存在します。

断酒会は、症状の重さに関わらず、心から自分の病気を治したいと思う人が集う場所です。
なので、孤独ではありません。
必ず仲間がいます。
断酒が軌道に乗り継続できている方は口を揃えて「酒のない生活は良い」とおっしゃいます。
アルコール依存症患者にとって、断酒は明るい未来への鍵です。
まとめ
繰り返しますが、アルコール依存症患者にとって重要なのは「再び酒に人生を食いつぶされることなく生きていくこと」だと思います。
アルコール依存症治療に失敗は付き物。
何度も失敗してその都度また自分を戒め、徐々に自分の弱さを克服していくこと。
これこそが断酒の成功への近道なのです。
とある患者さんから聞いた話ですが、患者さんが退院した際、迎えに来た家族から「棺桶に入ったとき、みんなから惜しまれるような生き方をしなさい」と言われたそうです。
断酒はアルコール依存症患者にとって困難を極めます。
しかし、一度失敗したからといって患者の人生が終わるわけではありません。
難しく考えるのはやめましょう。
失敗したら、またやり直せばいい。
ただ、それだけのことなのです。


