アルコール依存症という病気は、患者だけでなく周囲にも悪影響を与えます。
特に患者の家族への影響は大きく、患者が起こした飲酒関係のトラブルにより家庭崩壊へ至るケースも少なくありません。
また、患者と縁を切ったからといって、家族が苦しみから解放されるかというとそうでもなく、過去のトラウマやストレスからうつ病に代表される精神疾患に苦しむ家族もいます。
ここではアルコール依存症患者の家族をテーマに、
- アルコール依存症が家族へ与える悪影響
- アルコール依存症患者との関わり方
- アルコール依存症患者のサポート方法
を、3つの記事にわたって紹介していきます。
まずは第一段階として、アルコール依存症が家庭に与える悪影響についてです。
患者本人はもちろん、「家族がアルコール依存症かもしれない…」と思い当たる家族の方には必見の内容です。
この記事が皆さんのお悩み解消に少しでも役立てば幸いです。
家族への悪影響
アルコール依存症の症状概要でも紹介した通り、アルコール依存症という病気は患者本人だけでなく、周囲の人間にも悪影響を及ぼします。

患者に近しい人物であるほど被害は大きく、その最たる被害者は患者の伴侶や子どもといった家族です。
アルコール依存症による悪影響は二段階あります。
一次的な悪影響
- 暴言や暴力によって身体的 / 精神的に負傷する
- トラブルの後始末によって時間的 / 精神的な余裕がなくなる
- 経済的に困窮する
酒癖の悪さによる暴力や暴言は深刻な問題です。
また、アルコール依存症患者が起こすトラブルによって家族の生活が脅かされることも大きな問題です。
患者の家族の多くは、トラブルの後始末をしようとして、時間的余裕と精神的余裕が奪われます。
例えば、居酒屋で患者が払い忘れた飲食代を代わりに支払いに行ったり、酔いつぶれた患者を布団まで運んだり、患者が汚したものを掃除したりなど。
「他人様に迷惑をかけてしまった」という思いから家族は患者の後始末に時間を取られ、自分のしたいことができず、心の余裕が奪われていきます。
経済的余裕も奪われます。
アルコール依存症患者を抱える家庭では、飲酒問題でまともに仕事ができなかったり、給料を酒に費やしてしまったりして、経済的に不安定になります。
こうして、アルコール依存症患者の家族は多大なストレスにさらされ、心身ともに追い詰められていきます。
二次的な悪影響
- ストレスからくる精神疾患(うつ病、不眠症、パニック障害など)
- 共依存
- アダルトチルドレン
アルコール依存症患者の家族は巻き込まれたトラブルで強いストレスにさらされた結果、うつ病や不眠症といった精神疾患にかかってしまうことがあります。
また、共依存に陥ることも厄介な問題です。
共依存とは、「この人は自分がいないとダメになってしまう」といった脅迫観念にとらわれ、いつも相手のことばかりで、自分を大事にできなくなる状態です。
これはアルコール依存症患者の後始末に追われる伴侶や子どもによく見られ、アダルトチルドレン(家庭内のトラブルにより大人になってもトラウマに苦しむ人)の症状そのものでもあります。
両親のアルコール依存症の影響でアダルトチルドレンとなったFさんの体験記も掲載しております。
興味のある方はどうぞ。
![アダルトチルドレン[前編]](https://genshu.biz/wp-content/uploads/2020/07/1594625136963-160x160.jpg)
共依存に陥った人は、自分を犠牲にして必死にアルコール依存症患者を世話します。
しかし、世話をすればするほど患者にとって飲酒に好都合な環境が整います。
そして、患者はますます酒を飲むようになります。
どれだけ家族が世話をしても患者は飲むのをやめない悪循環です。
加えて、アルコール依存症患者が起こしたトラブルで、その家族が非難されることも往々にしてあります。
「なぜ止めなかったのか」
「甘やかしすぎなんじゃないか」
こういった無責任な批判は家族の心に深い爪跡を残し、そして容易には癒えてくれません。
こうした一次的な悪影響や二次的な悪影響から、離婚や家庭崩壊につながるケースは多くあります。
そして、崩壊した後も家族の苦しみは続きます。
アルコール依存症は患者本人だけでなく周囲の人間をも苦しめる恐ろしい病気なのです。
どうすべき?家族の選択肢
アルコール依存症は、周囲に多大な悪影響を与える病気であることがお分かりいただけたかと思います。
さて、アルコール依存症に振り回される羽目になった家族は、どういう人生を選択するのでしょうか。
ざっくり、次の3つが挙げられます。
- 見捨てる
- サポートする
- 医療機関などの第三者に任せる
見捨てるというのは薄情にも聞こえますが、いくら家族とはいえ、許せることには限度があります。
私自身がアルコール依存症で、家族に多大な迷惑をかけてきたので、もしこの文章を家族が見たら「どの口が言う」と責められてしまうでしょうが…
血がつながっていようと、患者が起こしたトラブルは患者自身が背負うべきものです。
アルコール依存症患者は家族から「許せない」といわれてしまった場合、その決断を否定することはできないでしょう。
無論、周囲の無関係な人間がそれを批判するのはお門違いです。
逆に、家族が患者を見捨てずに、サポートしたいと考えている場合もあるでしょう。
アルコール依存症患者の具体的なサポート方法についても別の記事を用意していますので、興味のある方はご覧ください。

医療機関などの第三者に任せるのも一つの手です。
「患者とは極力関わりたくないが、見捨てるのは忍びない」
そんな思いから入院費用は出すものの、治療は患者本人だけで行ってもらうというケースは割と多く見られます。
家族がまずやるべきこと
もしアルコール依存症患者の家族が、患者を見捨てないとするならば、それはまだもう少し患者と人生を共にすることを意味します。
家族が自分自身ではサポートせずに医療機関などの第三者に治療を任せる場合であっても、これまでに受けた傷が癒えるわけではありません。
もし患者を見捨てないとするならば、その時点でなるべく早く次の行動をとってください。
アルコール依存症外来や保健所に相談
アルコール依存症外来は文字通りアルコール依存症専門の外来病院です。
アルコール依存症は双極性障害など精神疾患と誤診されることもあるため、少しでも疑いがあるのであれば専門病院を訪ねるのが確実です。
また、こういった病院は家族のみの相談でもOKなことも多く、電話相談を受け付けているところもあります。
患者本人と一緒に受診できれば御の字ですが、大抵の患者は病院へ行くのを拒みます。
なので、まずは家族のみの相談でも構いません。
専門家の指示を仰いでください。
近くに専門病院がないという場合は、保健所や精神保健福祉センターなどでも相談を受け付けています。
近年では依存症問題に力を入れている自治体も多いので、まずは相談をしてみてください。
親戚や友人、近所の人などのアドバイスに従ってしまうのは良くありません。
いくら親しかろうと彼らは素人で専門家ではありません。
なるべく専門家に相談し、どう対応すべきかよく指示を聞いてから行動しましょう。
自分自身のメンタルサポート
家族の方はご自身のメンタルサポートを最優先に考えてください。
患者のことで頭が一杯だと、余裕がなくて冷静な判断ができません。
家族の方は、ここまで患者を支えてきた自分自身を褒めてあげてください。
そして患者がしてきたことが許せないのであれば、「自分が患者を許せない」ことを認めてあげてください。
それは何も間違ったことではありません。
むしろ今まで耐えてきた自分を褒め、その上で自分が本当にやりたいことを模索してください。
そうすることで患者と距離を取り、初めて患者を客観的に見ることができます。
何事も冷静であることが肝要です。
まとめ
アルコール依存症は患者本人だけの問題にとどまりません。
その家族も深く傷ついています。
そして、その影響は何十年と、長く続くのです。
家族の方の中には「許せない」と恨みを抱く方もいらっしゃるでしょう。
恨んでいいと思います。
家族とはいえ、許せないことは許さなくてよいと思います。
「恨んでしまう自分」を責める必要はありません。
その上で冷静な目で患者を見て、今後の対応について判断していただければと思います。

