このページではアルコール依存症の中期の症状を解説します。
目次
アルコール依存症の中期とは?
アルコール依存症の中期は初期から一歩進んだ段階です。
この頃になると、精神依存・身体依存の度合いが強まり、酒を手放すことができなくなります。
酒が切れた際の離脱症状(禁断症状)も重くなり、幻覚や幻聴、不安感も増すため、酔いがさめることを恐れるようになります。
そのため、酒を取り上げられそうになると暴力を振るう、自分自身の飲酒を注意する家族へ暴言を吐くといった、自分がアルコールを摂取できなくなることを酷く嫌います。
攻撃性も高くなりますが、周囲から指摘されても、自分自身の問題が酒にあると認めようとしません。
それほどまでに、依存対象であるアルコールを取り上げられることを恐れているのです。
無断欠勤や遅刻といった酒によるミスやトラブルが増加し、家族や周囲の人間も庇いきれなくなります。
家族、友人からの信頼だけでなく社会的信頼もどんどん失われ、患者自身も周囲の失望や自分自身が引き起こしたトラブルへの後ろめたさ、情けなさから現実逃避をするようになり、より飲酒へのめり込んでいきます。
そして、自分の問題に薄々気づいているにもかかわらず、「自分のような人間が助けを求めることが許されるのか」という罪悪感から周囲に助けを求めることをやめてしまい、末期状態になるまで治療を拒む患者もいます。
中期でよく見られる行動
アルコール依存症中期では、飲酒をするためなら手段を選ばない行動をとるようになります。具体的な事例は以下の通りです。
- 酔いつぶれるまで酒を飲み、迎い酒もする
– 毎日数時間おきに飲酒 - 酔った状態のまま、もしくは職場へ向かう前に飲酒をして仕事をする
- 飲酒をやめるよう注意されると性格が豹変する
- 自分自身の飲酒について指摘されることをとにかく嫌う
- 飲酒をするための嘘を頻繁に繰り返す
- 自分自身がアルコール依存症であることを決して認めない
- 攻撃性が高くなり、家族や友人にまで暴力を振ったり暴言を吐いたりする
- 嘔吐するような咳を頻繁にする
- 酒が切れると手が震え字が書けない
- 酒が原因のミスやトラブルが増え、警察沙汰になるほど事態が深刻化する
- ミスやトラブルの多発により職場から警告を受ける
- 自分自身の伴侶から離婚を切り出される
中期では、飲酒による問題が無視できない範囲にまで及びます。
患者に巻き込まれる家族、友人、職場関係の人は患者を支えることに疲弊し、人間関係が修復できないほどに崩壊してしまうことも多いです。
患者自身も酔いがさめると現状に気付き、「もうしない」と周囲の人間と約束しますが、すでに脳のコントロールが効かない状態なので約束が果たされることはありません。
そのため、患者の「酒をやめる」といった宣言や誓約書などは全く意味を成しません。
むしろ患者をさらに追い詰め、周囲の人間との関係をさらに悪化させてしまうだけです。

中期の具体的な症状
アルコール依存症中期になると、症状が目に見えて悪化します。
依存症専門の病院でなくとも、人間ドッグや健康診断などで引っかかることが多くなります 。
離脱症状の悪化
中期では初期の頃より離脱症状が悪化します。
酒が切れると幻覚や幻聴、不整脈、焦燥感、嘔吐、てんかん様けいれん発作などといった症状がみられ、字が書けないほど手足の震えが酷くなります。
目に見える形で身体に不調がでる
内臓・神経系の障害も目に見える形で現れ、血液検査でもAST(GOT)、ALT(GPT)、γ-GTといった肝臓に関する項目の数値が上がります。
肝臓以外にも心臓、膵臓、腎臓の数値が悪化している患者も多く、人間ドッグや健康診断でもアルコールを控えるよう指摘されますが、決して飲酒をやめません。
外見に特徴が出る
外見上の変化も顕著です。
顔がむくんで丸顔になる、やせているのに二重顎になる、肌が浅黒くなるといった変化が起きます。
口臭も酷くなり、体臭からはっきりとアルコール臭がするようになります。
栄養障害になることもある
中期の患者にみられる身体障害には、アルコールの臓器毒性によるものと栄養障害によるものの2種類があります。
アルコール依存症になると食事もとらずに飲み続けることが多く、たとえ十分な食事をしていても多量のアルコールのため吸収不良を起こし、ビタミン不足をはじめとする栄養障害に陥ってしまいます。
具体的な身体疾患
中期の患者がよく診断される身体疾患は以下の通りです。
- アルコール性肝炎
- 肝硬変
- 急性膵炎
- 胃潰瘍
- 急性胃炎
- 糖尿病
- 高血圧
- 性的能力の低下(インポテンツ、精子数の減少)
この他にも手足のむくみが酷くなり、鼻や胸あたりの皮膚に毛細血管がまるでクモの巣のように浮かび上がるクモ状血管腫という症状がみられることがあります。
また、ホルモンバランスの悪化から男性であれば乳房が膨らむ、女性であれば生理不順や生理痛が悪化するといったケースが見受けられます。
うつ病や不安障害、統合失調症といった精神疾患を発症してしまうこともあります。
こうした精神疾患は、脳がアルコールによって障害されたために起こるもので、もともと精神疾患を持たない人でもアルコール依存症になれば発症する確率が高くなります。
中期の離脱症状
中期の離脱症状は早期離脱症状群とも呼ばれます。
この離脱症状では、初期の離脱症状に加えて軽い幻覚や幻聴、不整脈、焦燥感、嘔吐、てんかん様けいれん発作などがみられ、90%以上の患者が断酒後2日以内に経験します。
これらの症状は1~3回ほど大発作の形で発生します。
これらの治療は断酒を続けるだけでよく、抗けいれん薬を服用する必要はありません。
また周囲の人間が自分の陰口を叩いている、周囲が自分を非難している、誰かに監視されている気がするといった不安や恐怖感から突然怒りだすことがあります。
患者によっては、幻覚・幻聴のために独り言を言ったり、誰もいないのに暴れ出すといったケースもあります。

中期の心理状態
依存対象であるアルコールを失うことを恐れ、「自分はまだ大丈夫」「自分はアルコール依存症ではない」と自分自身の現状を否認する傾向が強くなります。
肝臓などの身体の症状を治すことに躍起になったり、酒で生じた仕事の遅れを取り戻そうとしたり、とにかく自分自身の飲酒問題から目を逸らそうとします。
その他にも、次のような現実逃避をするようになります。
- 自分自身の問題を直視できないために他人を攻撃する
- 飲んだことを正当化しようとする
- 酔うと気が大きくなり、「自分より偉い人間はいない」といった気持ちになる
本心は劣等感と孤独感に苛まれており、「自分から酒を取ったら何が残るだろうか」「酒さえなければもっと良い人生を送れたはずなのに」と後悔しているケースが多いのです。
そういった現実逃避や後悔から、ますます酒にのめり込み、抜け出せなくなります。
こうなってしまうと周囲の声も容易に届きません。
何を言っても話を聞こうとしない、無理に話し合いをしようとすると攻撃的になるといった行動が多くなるため、支えようとする家族や周囲の人も疲弊しきってしまいます。
中期での治療法
中期からの治療は原則入院です。
アルコール依存症であるという事実を否認する患者が多く、強制的に病院へ入院するケースも見受けられます。
実際にアルコール依存所で入院した小石さんの病院を具体例として紹介しましょう。
小石さんの場合、入院してすぐに治療を始めるのではなく、2週間かけて体内からアルコールを完全に排出し、それから治療プログラムを開始するという治療内容でした。
治療プログラムでは他の依存症患者と病気についての正しい知識と自己分析を行い、社会復帰のためのリハビリを行います。
退院後も抗酒剤の服用、定期的な通院、自助グループというアルコール依存症患者同士の会合へ参加し、外部からの支援を受けながら社会復帰を目指します。

大切なものを自らの手で壊してしまう時期
アルコール依存症中期を一言で表すなら、自分の大切なものを自らの手で壊してしまう時期です。
中期は初期とは格段に症状が重くなっています。
患者自身の身体的・精神的問題だけでなく、家族や親しい人との人間関係、社会的信用にも大きなダメージを与えます。
信頼を失うのはあっという間ですが、それを取り戻すにはとてつもない努力と時間が必要です。
この記事を読んでわずかでも心当たりのある人は、失ってから後悔しないように自分を一度見つめ直してみてください。

