アルコール依存症が進行し、症状がどんどん悪化してしまった場合、治療に専念するために休職しようかと検討する方もいるでしょう。
しかし、休職をするには医師に診断書を書いてもらう必要があります。
しかも診断書を書いてもらえるかどうかは患者の状態と医師の判断によります。
今回は診断書が必要な理由や、医師から診断書を出してもらいやすくなるポイントについてご紹介します。
また、診断書を出してもらうにあたり注意すべき点についても調査しました。
どうしても診断書が必要な方は、ぜひ目を通してみてください。
目次
休職には診断書が必要!
診断書は休職・復職をする際に必要不可欠なものです。
これがないと、たとえ治療に専念するためだとしても、会社は休職を認めてくれません。
なぜならば、休職とは自分の都合で会社を長期間休むことをいうからです。
自分の都合で会社を休む以上、会社側が休む理由について納得できるものでなければなりません。
だからこそ、専門家である医師の診断書が必要になるのです。
患者さんの中には
「診断書を出すと、自分はアルコール依存症ですと宣言しているようで嫌だ」
「診断書があると同僚や先輩、上司から軽蔑されるかもしれない」
と不安に思う方もいるでしょう。
しかし、診断書を出してもらえば周囲の力を頼りながら治療に専念することが可能になります。
アルコール依存症ということは、以前は会社の飲み会でも随分飲んでいたはず。
それにより、周囲からも酒をよく勧められるでしょう。
こういった状況は断酒を困難にしますが、一度診断書を会社に提出しておけば、それ以降酒を勧められる機会は減るでしょう。
また、もし勧められた場合でも「ドクターストップ」を理由にして堂々と酒を断ることができるようになります。
勇気を出して診断書を会社に提出するメリットは、アルコール依存症の治療においては非常に大きいです。
この記事に辿り着いた方の中には、休職を検討しなければならないほど仕事に影響が出ている方も少なくないはず。
このまま放置すれば、解雇という最悪の結末が待っています。
休職すれば会社に迷惑をかけることになりますが、自分自身が抱えるアルコール依存症を野放しにする方がもっと迷惑をかけます。
そうなれば周囲からの信頼も地に堕ちてしまいます。
そうならないためにも、必要あらば医師から診断書を出してもらい、しっかりと治療に専念しましょう。
診断書は公的機関に提出する重要書類
診断書とは、患者の症状や診断内容、治療内容などを公に証明する書類で、医師にのみ作成が許可されています。
診断書は次のような場合に必要となる重要書類です。
- 欠勤や休職
- 病気や障害に対応した業務内容の調整要請
- 健康保険や労災保険の認定
- 社会福祉制度の利用
診断書がないと労災認定もおりませんし、社会福祉制度も利用できません。
つまり診断書がないと、怪我や病気になっても国や会社から全くサポートしてもらえないのです。
診断書が出やすくなるポイント
アルコール依存症患者の中には「医師から診断書がもらえない」と悩む人は少なくありません。
なぜ、彼らは医師から診断書を受け取ることができないのでしょうか?
そんな疑問に答えるべく、医師からの視点を踏まえながら、診断書が出やすくなるポイントを解説していきます。
アルコール依存症の症状が明確に出ている
明らかにアルコール依存症だと判断できる症状があり、それが患者の健康を明らかに害している場合であれば、当然診断書は出やすくなります。
アルコール依存症の顕著な症状というと、手足の震え、寝汗、悪寒・微熱、不眠、下痢などの離脱症状です。
離脱症状の詳細については「アルコール依存症の症状概要」にて解説しています。

患者の周囲でトラブルが発生している
家庭や職場など、患者の周囲でトラブルが発生している場合も診断書が出やすくなります。
なぜなら周囲が迷惑しているからです。
患者が起こすトラブルの頻度が多い、もしくは被害があまりに大きいケースだと、困り果てた家族が医師に相談し、医師が診断書を片手に患者を治療するよう説得することもあります。
こういったケースの場合、患者の否認感情は強く「自分は依存症ではない」と本気で思っています。
こうなってしまうと、自分からアルコール依存症を自覚するのは困難です。
そのため、医師は診断書を出して患者に自覚を促し、治療するよう説得することがあります。

患者が現状を改善したいと強く願っている
医師も人間ですから、治す気のない患者よりも本心から治したいと思っている患者を優先的に治療します。
言い換えれば、治す気のない患者だとみなされれば、診断書はもらいにくくなります。
アルコール依存症の診断書がもらえなかった人の中には、クビにならない口実をほしがっていた人も多くみられます。
「アルコール依存症の診断書さえあれば、病気だとみなされて解雇されずに済む…」
そんな考えの人たちに対して、医師は休職中に入院することを条件に診断書を出すことがあります。
「診断書は入院しないともらえない」といわれるのは、これが理由です。
治療する気のない人に医師は診断書を出しません。
確実に診断書をもらうなら専門病院での診断を
本気で治療したいと考えた上で休職を検討している場合は、アルコール依存症の専門病院で診断を受けることをおすすめします。
近年、厚生労働省による依存症対策強化により、全国各地に相談窓口と医療機関が配置されています。
お近くの専門病院を検索したい方は、「依存症対策全国センター」で調べると良いでしょう。
参考 全国の相談窓口・医療機関を探す依存症対策全国センターアルコール依存症は誤診されやすい
さて、先ほどまで「医師には正直に現状を証言しよう!」と言ってきましたが、正直に証言しても誤診される可能性はあります。
「それじゃあ、正直に答える意味がないじゃないか」と批判したくなるかもしれませんが、実はそもそもアルコール依存症は誤診されやすい病気なのです。
というのも、アルコール依存症は他の精神疾患と合併しやすく、症状も似ているからです。
「アルコール依存症の初期症状」でも述べましたが、アルコール依存症の離脱症状は風邪やうつ病の症状とよく似ています。

また専門家も、「症状をみるだけでは肝硬変(アルコール依存症末期でみられる疾患)の患者と精神疾患患者の鑑別は容易ではない」と述べています。
参考 肝疾患と精神疾患の関連厚生労働省の発表でも、うつ病とアルコール依存症が合併するパターンの中に「長期の大量飲酒がうつ病を引き起こした場合」と「アルコール依存症の人が飲酒をやめることによって生じる離脱症状のひとつとしてうつ状態がみられる場合」があるとしています。
参考 アルコールとうつ、自殺e-ヘルスネット(厚生労働省)アルコール依存症とうつ病が、切っても切れない関係にあることが示されています。
このように、専門家でもアルコール依存症と精神疾患を誤診することがあるのです。
酒によるトラブルで世間を騒がせた某アイドルは、実際にアルコール依存症の疑いがかなり強いにも関わらず、別の症状の診断を受けていました。
一方で、このアイドルの会見での情報をもとに、アルコール依存症治療の最先端である久里浜医療センターのスクリーニングテストを私が代理でおこなってみたところ、アルコール依存症の疑いがかなり強く出ています。
参考 KAST-M (久里浜式アルコール症スクリーニングテスト 男性版)久里浜医療センターこのようなことになる可能性をできるだけ下げるためにも、アルコール依存症の専門病院をぜひ受診してください。
まとめ
アルコール依存症の診断書は治療に専念するために必要となる書類です。
すなわち、これは手段の一つにすぎず、目的はあくまで治療をすること。
確実に診断書が欲しい場合は、アルコール依存症治療に長けた専門病院を受診すること、そして、受診した際にはその後の治療のためにも自分の現状は正直に証言することをおすすめします。

