医師からアルコール依存症の診断をされたら、患者さんが真っ先に思うのは家族のこと、そして職場(会社)にどう報告するかです。
「アルコール依存症の治療がしたい。でも会社には何と報告すればよいのか」
そう悩む患者さんのために、今回は休職から復職するまでの手順と申請方法、休職・復職に関する質問にお答えします。
また、休職中に利用できる社会福祉制度の紹介と申請方法もご説明します。
「休職届を出したいが申請方法が分からない」
「復職後の勤務はどうなるのか」
そんな悩みをお持ちの方は、ぜひこの記事を読んで参考にしてください。
目次
休職から復職するまでの手順と申請方法
治療に専念するとなれば、会社をしばらく休まなければなりません。
このときに使うのが休職制度と呼ばれる、各会社が就業規約で定めた「労働者側の都合で長期間会社を休むための制度」です。
休職から復職にいたるまでの手順をざっと説明すると以下の通りです。
休職するまでの流れ
診断書が欲しい場合は、アルコール依存症の専門病院を受診するのが良いでしょう。別ページ「アルコール依存症で診断書を出してもらうには」に診断書をもらうためのポイントを詳しく説明を書いていますので、こちらもあわせてご確認ください。
診断書を上司に提出します。
- 休職したいこと
- その理由がアルコール依存症の治療のためであること
- 自分自身の具体的な症状
- 休職の期間はどのくらいを想定しているか
- 有給休暇は使えるかの確認
- 休職制度を使いたい旨
を伝えましょう。
産業医は企業に勤める労働者の健康管理をしている医師のことで、会社によっては休職をするのに産業医の診断が必要な場合もあります。
休職を申請する際には、下記のものが必要です。
- 主治医の診断書
- 休職届
- 健康保険傷病手当金支給申請書(傷病手当を受け取る場合)
- 休業補償給付支給請求書(休業補償給付を受け取る場合)
下から2つの書類は会社(雇用主)が記入しなければならない事項があるため、休職前に提出しておきましょう。
制度の詳細については「休職中は社会福祉制度を上手に活用しよう!」で後述します。
復職するまでの流れ
断酒や減酒で治療を進め、一定の期間を経た後、主治医と相談の上、復職のための診断書を受け取ります。
復職したい旨を上司や産業医に伝えます。休職前と今とで、何がどう変わって、なぜ今仕事ができる(したい)と思っているのかを具体的に説明することが必要です。
大抵は試験就業という形での復職が検討されます。試験就業期間中は、ストレス性の低い業務を担当したり、就業時間を短くしてもらうなどの配慮がなされます。業務内容や条件に、会社と患者が合意した場合、復職に至ります。
試験就業の結果から、上司が患者に対して、通常業務に戻っても問題ないと判断すれば、元の部署に戻れます。
上司は患者と都度面談しますが、必ずしも上司にアルコール依存症の専門知識があるわけではないので、多くの場合は産業医の見解も重要視されます。
もし復職できたならば、休職中にお世話になった同僚や上司などに挨拶しにいきましょう。
一方で、もし会社側から「雇い続けることが難しい」といわれてしまった場合は、残念ながら退職することになります。
この場合は、そもそも会社の環境が患者自身に合っていなかった可能性があるため、今後も続く自分自身のアルコール依存症治療に最適な職場を改めて探すというのも一つの手です。
復職を申請する際には、下記のものが必要です。
- 主治医の診断書
- 復職届
産業医とは?従業員50人以上の会社に勤める人は注意!
上記の手順で登場した「産業医」がどのような医師なのかについてご説明します。
産業医とは、従業員が常時50人以上いる企業で、労働者の健康維持のために各企業が雇っている専門医です。
自分自身の会社に産業医がいる場合、休職・復職の手続きをする場合はこの産業医による診断を受けなければなりません。
診断において、一般的な医師とは「完治」の定義が異なります。
ある疾患を患う患者に対し、一般的な医師は「患者が日常生活を問題なく行えるほど病態が安定している状態」を完治とします。
一方、産業医は「患者が一日の所定労働時間ちゃんと勤務できる状態」を完治とします。
このため、主治医と産業医では診断結果が食い違うこともよくあります。
休職の際は、まず主治医に診断書を出してもらい、それから産業医の元へ持っていくと休職手続きがスムーズにいきます。
逆に復職の際、は主治医の意見より職場を知っている産業医の意見が優先されます。
復職するには産業医との面談が基本的には必須です。
休職をする際の注意点
休職中は治療にだけ専念しておけばいいというものではありません。
休職をするにあたり、いくつか注意点があります。
休職前は引継ぎを
休職期間は数か月に及びます。
業務に支障が出ないためにも、取引先やビジネスパートナーには連絡を入れ、自分が受け持っている仕事を社内の後任へ引継ぎましょう。
自己完結している業務も中にはあるでしょう。
そういった案件はマニュアルやアドバイスをメモに残しておくと親切です。
会社の記名・押印を必要とする書類の提出
傷病手当や休業補償給付の申請には会社の記名・押印が必要です。
そういった書類は休職前に会社へ提出しておきましょう。
休職中の連絡先の共有
休職中も雇用関係は続いています。
そのため、休職中も人事部や上司と連絡が取れるようにしておく必要があります。
万が一、上司と連絡が取りづらい場合は、産業医経由で会社へ連絡することも可能です。
給与は一切出ない
休職は「自分の都合で会社を休むこと」なので、給与は出ません。
雇用関係は続いているため社会保険の支払い義務は発生します。
つまり、休職中は収入がゼロになるのに、治療費や社会保険の支払いなどの支出は増えるため、金銭的に厳しい状態となります。
休職中は社会福祉制度を上手に活用しよう!
休職中は給与が出ないため金銭的に厳しい状態です。
そんな状態を少しでも軽くするために、社会福祉制度を大いに活用しましょう。
給与をもらっていたときほどの収入が得られるわけではありませんが、少なくとも無一文にならずに済みます。
傷病手当
傷病手当とは、会社と関係ない業務外での怪我・病気で会社を休む場合、給料の代わりとして健康保険から支給されるお金のことです。
条件は4つあり、この4つの条件をすべてクリアしていればお金を受け取ることができます。
- 会社とは関係のない怪我もしくは病気で療養中である
- その怪我もしくは病気のために仕事に就けない
- 連続する3日間を含む4日以上仕事ができない
- 休業した期間の給与を受け取っていない
また、支給金額は、ざっくりいうと自分の給与のおよそ3分の2にあたる額で、詳細には、
(傷病手当金が支給される日以前の連続した12カ月の標準報酬月額の合計 / 12カ月 / 30日)x (2 / 3)
です。
最大1年半、受け取ることができます。
申請書とともに、会社の療養担当者(産業医)の意見書、事業主の証明を添付して、全国健康保険協会の各都道府県支部に郵送で提出します。
申請書のダウンロードは全国健康保険協会のHPで行っています。
参考 健康保険傷病手当金支給申請書全国健康保険協会休業補償給付
休業補償給付とは、仕事中もしくは通勤途中に原因がある怪我・病気で会社を休む場合に支給されるお金のことです。
仕事の接待で酒を飲み続けた、もしくはアルコールハラスメントで無理矢理飲まされたといった場合は、その状況の証明さえできれば、この休業補償給付を受け取れる可能性があります。
条件は3つあります。
- 仕事中もしくは通勤途中に原因がある怪我もしくは病気で療養中である
- その怪我もしくは病気のために仕事に就けない
- 連続する3日間を含む4日以上仕事ができない
支給される金額は、おおよそ自分の給与の8割です。
休業4日目から、1年半受け取ることができます。
(休業1日につき給付基礎日額の60%相当)+(特別支援金として20%)=給付基礎日額の80%
※給付基礎日額=(事故が発生した日の直前3か月の給与の総額 / 歴日数)
申請方法は厚生労働省のHPから申請書をダウンロードし、業務災害であれば「休業補償給付支給申請書」(様式第8号)、通勤災害であれば「休業給付支給請求書」(様式16号の6)を使用します。
必要事項を記入したら会社に提出して内容の確認してもらい、記載内容に問題がなければ、会社から記名・押印をもらい、自分の地区を担当する労働基準監督署に提出します。
なお、傷病手当と休業補償給付は原則併給はされません。
参考 休業(補償)給付 傷病(補償)年金の請求手続厚生労働省まとめ
会社を休んでのアルコール依存症を治療となると、休職の手続きをしなければなりません。
これは面倒に感じるでしょう。
また、傷病手当・休業補償給付の申請の手続きは難しく感じるかもしれません。
さらに、休職中は職場にも迷惑をかけることになり、そう考えると休職に踏ん切りがつかないという気持ちもわかります。
しかし、アルコール依存症を放置する方が、もっと周囲に多大な迷惑をかけてしまいます。
引き延ばせば引き延ばすほど、アルコール依存症は重症化していきます。
医師の指示をきちんと聞き、休職の必要があるとなれば、職場に説明したうえで早期治療に専念しましょう。

