これまでにアルコール依存症患者の家族をテーマにして、「家族に与える悪影響」「アルコール依存症患者との関わり方」を解説しました。
このページでは、アルコール依存症患者を具体的にどうサポートしていくかに焦点を絞って解説します。
「患者への接し方が分からない」
「具体的にどう対応すればいいの?」
といった悩みを抱えている方は、ぜひ一度目を通してみてください。
また、アルコール依存症の知識を得るのにおすすめの本をご紹介しています。
無料で公開されている書籍もありますので、興味のある方は読んでみてください。
目次
アルコール依存症患者のサポート方法
早速、アルコール依存症患者の具体的なサポート方法を6つに分けてご説明します。
「アルコール依存症」という病気を知ろう!
アルコール依存症患者との関わり方にも書きましたが、アルコール依存症という病気についての知識を得ることは非常に重要です。
本サイトのアルコール依存症という病気の記事を読み進めていただいて知識をつけるというのも一つの手です。
また、アルコール依存症について勉強できる書籍も紹介します。
漫画形式で無料で気軽に読めるものもありますので、ぜひ一度目を通してみてください。
おすすめの本
作・画:三森みさ
この漫画は厚生労働省・専門家監修のもと作成された、アルコール依存症啓発本です。
今回の記事も、この漫画を大いに参考にさせていただいております。
大変分かりやすいうえ、WEBで無料で公開されていますので気軽に読むことができます。
著者:菊池真理子
この漫画はアルコール依存症の家族視点で書かれた漫画です。
アルコール依存症の父親と、そんな夫を支えるのに疲れて宗教に入った母親との間に生まれた子どもが主人公。
アルコール依存症患者を親に持つ子どもの苦しみ、葛藤、アダルトチルドレンとは何なのかを赤裸々に描いた名作です。
患者の後始末・お世話を少しずつやめる
アルコール依存症患者の後始末・お世話をするのを、少しずつやめていきましょう。
これは、家族が患者の世話を焼くことで、かえって患者が自分自身の問題に気付きにくくなってしまうことがあるからです。
これをイネイブリングといいます。
放置すれば命に関わること以外は、基本的に見守る姿勢をとりましょう。
もちろん、急に行えば、患者は驚いて反発するかもしれません。
暴言を吐く可能性もあります。
要求は簡潔かつ具体的に
患者から暴言を吐かれた際には、正直に本心を伝えましょう。
長々と話してしまうと小言や説教をされているように感じて、聞く姿勢をやめてしまうことがあります。
伝えたいことを伝えるために、文は短く、内容は簡潔かつ具体的に伝えるようにしましょう。
「もうあなたのお世話はできない」
「あなたの後始末をするのが辛い」
といった感じで構いません。
長々と言う必要はなく、ただ「もうこれ以上は限界である」ことを伝えるだけで十分です。
ただし、必ず素面(シラフ)のときに言ってください。
酔っているときに言っても効果はありません。
必ず酔っていないときに言いましょう。
正論や小言を言わない
これは元患者として入院していたライターの小石さんの意見ですが、曰く「アルコール依存症患者は自分の現状が良くないことである」と薄々気付いています。
今の状況がマズいと分かっているからこそ、現実逃避のために酒を飲んでしまうことが多いのです。
また「あなたのためを思って~」や「あなたはどうしてこんなにだらしないの?」など、「あなた」を主語にして伝えると、聞いている方は「自分が攻撃されている!」と感じてしまいます。
そのため、正論や小言はなるべく避け、どうしても伝えたいことがあるときは「わたし」を主語にして伝えるようにしてみましょう。
良いことを話す
アルコール依存症患者の多くは居場所を探しています。
「自分は駄目人間」「もう自分の人生は終わった」という思いから、ありのままの自分を受け入れてくれる場所はどこにもないと追い詰められています。
そうなってしまったのは、元をただせば患者自身に原因があるため、「自業自得」といってしまえばそれまででしょう。
しかし、患者一人でその責任を背負い克服するのはもはや不可能です。
支えてくれる人、患者の心の避難所となるべき居場所が必要です。
なので、心に余裕ができてきたら、患者とのコミュニケーションを心がけてみてください。
挨拶だけでも構いません。
患者が自分の飲んだ空き缶を片付けたのであれば、「ありがとう」と一言伝えるだけでもOKです。
まずは、挨拶と「ありがとう」を心がけてみてください。
自分の悩みを打ち明けられる場所を探す
悩みを吐き出せる場所は大変重要です。
相談やカウンセリングなど、悩みを話せる場所を探してみましょう。
解決策は見つからずとも、ただ話を聞いてもらうだけでも心はずいぶん楽になります。
家族会や保健所といった、身近に相談できる場所がないか探してみましょう。
具体的なカウンセリング・相談先については「アルコール依存症患者との関わり方」の記事で書いていますので参考にしてみてください。

家族はやってしまいがち…「イネイブリング」とは?
先ほどもチラッと紹介しましたが、イネイブリングとは依存症患者を手助けすることで、かえって依存症の回復を遅らせてしまう周囲の人間の行為のことです。
具体的には以下の行為がイネイブリングに該当します。
- 二日酔いになった患者の代わりに会社を休む旨の連絡を入れる
- 患者が汚した後片付けをする
- 店で酔いつぶれた患者を迎えに行く
- 患者のためにおつまみを作る
- 患者が支払い忘れた飲食代などの肩代わりをする
etc…
イネイブリングをしてしまったからといって家族に非はありません。
これらの行動は、その人が患者を思ってこその行動。
それを非難するのは見当違いです。
とはいえ、イネイブリングをやめず患者を世話し続ければ、いつまでたっても患者は自分の問題を自覚できません。
患者に自分の問題を自覚させるためには、「これ以上飲むわけにはいかない」という所謂「底付き体験」を経験させるのが効果的です。
かくいう私も、底付きを体験して、やっとアルコール依存症の治療に踏み切れました。
思い切って患者を手伝うことをやめてみましょう。
【患者の体験談】患者から家族へ伝えておきたいこと
さて、ここからは患者側から家族へ伝えておきたいこと、過去にしてもらってありがたかったことなどを、筆者タチバナと協力者であるライターの小石さん両名からそれぞれ伝えていこうと思います。
タチバナより
家族には、私がアルコール依存症であると指摘してくれたことに感謝しています。
私は、自分の酒での数々の失敗を、単に酒癖が悪いからだと思っていました。
酒癖が悪い自覚はあり、その悪癖を直したい思いもありましたが、それは父譲りの遺伝だと決めつけ、半ば諦めていました。
そして、相変わらず飲んでは失敗し、後悔してはまた飲んでいました。
はじめ、アルコール依存症だと指摘されても、毎日飲むような習慣がなかった私は「依存」している自覚を持つことはできませんでした。
そんなときも、家族はアルコール依存症という病気の知識を私に与えてくれ、本を勧めてくれました。
その粘り強さを当時は鬱陶しく感じていました(申し訳ない…)が、それは私の大きな間違いで、そこまでしてもらえたことを今では大変幸せに思っています。
ライター小石より
放置するという対応をしてくれたことを心から感謝します。
両親からすれば気が気でなかったと思います。
両親が放っておいてくれたおかげで、私は自分の問題をようやく向き合うことができました。
自分でどうにかしようとしてできず、これは不可能だと判断したところで両親は私に入院を勧めてきました。
私が入院をすんなり受け入れたのは、この底付き体験のおかげといっても過言ではありません。
また、退院後も私に家の仕事を用意してくれていたことも助かりました。
庭掃除や夕飯づくりといった家事等の仕事でも、自分が誰かの役に立っているという認識のおかげで「自分がここにいてもいいんだ」と思えるようになりました。
独り立ちするにはまだまだほど遠いですが、それでも自分のやるべきことがあると非常に気が楽です。
まとめ
アルコール依存症の家族を持つ方へ向けて、アルコール依存症患者を具体的にどうサポートしていくかについて紹介しました。
- アルコール依存症という病気を知る
- 患者の後始末・お世話を少しずつやめる
- 要求は簡潔かつ具体的に
- 正論や小言を言わない
- 良いことを話す
- 自分の悩みを打ち明けられる場所を探す
これらを意識してみてください。
一アルコール依存症患者として、心より応援しつつ、心より感謝いたします。

