「酒なんてやめようと思えばいつだってやめられる」
アルコール依存症患者の中には、こう言う方もいますが、実際にアルコール依存症患者が自力で断酒を行うことは可能なのでしょうか?
今回は通院・入院・断酒会・自力の4種類について、断酒方法・メリット・デメリット・具体例について徹底比較しました。
治療のために断酒方法を模索している方は必見の内容です。
この記事を読んで、少しでも断酒の参考になれば幸いです。
4つの断酒方法を徹底比較
断酒方法には主に4つの方法があります。
- 通院する
- 入院する
- 断酒会に通う
- 自力で行う
通院・入院は医療機関の力を借りながら断酒を行います。
一方、下の2つは医療機関に頼らず、基本的に自分の意思のみで断酒を継続することになります。
結論から述べると、アルコール依存症患者の場合、自力のみでの断酒は極めて難しいでしょう。
ごく少数、自力で断酒できたという方はいらっしゃるかもしれません。
ただ、それは例外と受け取り、基本的に参考にすべきでないと思います。
というのも、アルコール依存症という病気は患者から脳のコントロールを奪う病気であるため、アルコール依存症であれば自力で節酒を行うことができないのです。

だからこそ、アルコール依存症患者は医師や家族などの監視の下で断酒します。
抗酒剤(シアナマイドなど)の薬物療法に取り組みます。
第三者や薬の力を借りて飲酒欲求のコントロールを図るのです。
それでは、一つ一つを詳しく見ていきましょう。
通院
医療機関を頼って断酒をおこなう場合、アルコール依存症専用の治療プログラムに従って、医師や看護師の管理の下で治療を進めることになります。
断酒方法
専用の治療プログラムにしたがって治療を進めます。

後述する入院での断酒でも同様ですが、まずは医師からアルコール依存症である診断を受け、自分が病気であるという認識を持つことがスタートです(図中ステップ1「導入期」)。
その後、通院か入院か選択し、アルコールが手に入らない環境下に身を置くことになります(図中ステップ2「解毒期」~ステップ3「リハビリテーション前期」)。
また、薬物療法(抗酒剤や向精神薬の服用)を受けつつ、断酒を開始します(図中ステップ2「解毒期」~ステップ3「リハビリテーション前期」)。
最終的には、第三者(医師、家族等)と自力の双方で断酒を継続します(図中ステップ4「リハビリテーション後期」)。
通院は、職場の都合で長い休暇を取りづらい方や、周囲に病気を隠しつつ治療したい方が選択する断酒方法です。
また、アルコール依存症は回復するものの「完治しない」病気です。
高血圧や糖尿病と同様、改善はできても元のような健康な体に戻ることはありません。
そのため通院をする場合、個人差にもよりますが数年間にわたる長期的な通院を覚悟しなければなりません。
長期的な通院となると、医師との相性や診察の時間帯、処方される薬代の価格といった、通院先の病院選びが重要です。
また、断酒会を併用することで断酒の成功率を高めるのが一般的です。
メリット
- 医療費はかかるが、入院ほどコストは高くない
- 医師の管理下で確実な治療を行える
- 人に相談しにくいアルコール依存症特有の悩みを、専門知識を持った医師に相談することができる
通院による断酒の最大のメリットは、アルコール依存症という人には相談しにくい悩みを、専門知識を持った医師に聞いてもらえることです。
専門知識を持った医師であれば患者の悩みに適切な対処法を教えてくれます。
また、アルコール依存症だけでなく、患者が抱えている心の問題(うつ病やパニック障害、不眠症状など)にも対応してくれます。
デメリット
- 数年にわたって治療費・薬代がかかる
- 長期的な通院をしなければならないため、医師との相性や診察の時間帯、処方される薬代の価格といった通院先の選定に気を使う
通院による断酒のデメリットとしては、やはりお金がかかってしまうことです。
特に、通院は長期間(数年間にわたって)通う必要があるため、自分に合わない病院を選んでしまうと後々大変です。
病院選びには、自分のライフスタイルとお財布事情、通院先予定の医師の人柄などよく考慮して選ぶようにしてください。
具体例
私の経験した通院による断酒の治療例をご紹介します。
- 通院は2週に1度程度
- 通院の際には病院でおこなわれる断酒会にも参加
- シアナマイド(抗酒剤)とレグテクト(飲酒欲求を抑制する薬)を併用
– ただし、服用は飲み会の当日に限る
私の場合、家で毎日酒を飲む習慣がなかったため、薬の服用は飲み会当日だけでした。
特にシアナマイドは、服用するとアルコールを分解できない身体になるので心強いものです。
確実に服用した事実を家族と共有すべく、シアナマイドは妻に入れてもらって飲んでいました。
突然誘われた飲み会は、できるだけ断るようにしていましたが、参加せざるを得ない場合もありました。

入院
入院する場合は病院という隔絶された環境下で医師の指示に従って断酒を行うので、入院中はほぼ100%断酒をすることができます。
断酒方法
入院による断酒も通院のそれとほぼ同様です。
ただし、入院する場合は通院と比較して約10倍の医療費がかかります。
実際に通院・入院した場合を、それぞれシミュレーションして算出した価格はアルコール依存症の治療にかかる費用の記事でご確認ください。

入院は通院での断酒が困難だと自覚した方や、家族によって強制的に入院したアルコール依存症中期以降の患者さんが多い傾向にあります。
実際に入院による断酒を選択した小石さんによると、入院中の患者さんのうち、8割以上がアルコール依存症中期以降の方でした。
メリット
- 入院中はほぼ100%断酒ができる
- 入院中に医師が監修した酒害教育(アルコールが人体に及ぼす悪影響についての知識)や、専門の精神療法が受けられる
- 入院先の病院によっては、再就職先を斡旋してくれる病院もある
入院による断酒の一番のメリットは、なんといっても断酒の成功率が高いことです。
また、病院によっては再就職先を斡旋してくれるところや、リハビリとして患者にデイケアでの就業を行ってから再就職を促すケースもあります。
入院中は、社会復帰のための専門治療プログラムを短期間に集中して取り組むことができます。
とにかく確実な治療がしたいという方には、入院して断酒することをおすすめします。
デメリット
- 高額な医療費がかかる
- 病院によっては「本気で治療したいと考えている患者」しか入院を許可しない病院もある
- 入院中は断酒ができても、退院後も断酒を継続できるとは限らない
一番のデメリットは高額な医療費がかかることです。
入院する場合は数か月の入院の後、退院後は通院することが基本です。
つまり、入院に加えて通院の費用もかかるのです。
しかも、入院中に断酒に成功したからと言って、退院後も断酒が続けられるとは限りません。
また、病院によってはアルコール依存症への理解が浅い看護師の方もいます。
なので、入院中に相性の悪い看護師と遭遇してしまう可能性は否めません。
とはいえ、このページで紹介する4つの断酒方法のうち、一番確実に断酒が行えるのは入院です。
「もう後がない」「とにかく治療をしたい」という方は、入院での断酒がおすすめです。
具体例
具体例として、小石さんの入院による断酒の治療例をご紹介します。
- 入院期間は3か月
- かかった費用は40万円ぐらい(薬代を含む)
- 入院中の治療プログラムへの参加は任意なので、好きな時に好きなように参加してOK
- 入院中は週に1回、自助グループのメンバーとミーティングを行う
- 退院後の通院頻度は月に1回(アルコール依存症中期以降の人であれば週に1回)
- 精神科医の診断による確実な自己分析で、飲酒欲求のコントロールが暴走しないよう対策を立てられる
断酒会に通う
断酒会とは、アルコール依存症患者の方がお互いを助け合うために結成した自助グループです。
この断酒会のメンバーの一員となり、断酒を行うという方法もあります。
断酒方法
まず、住んでいる地域で行われている断酒会を探し、ミーティングに参加して「断酒をしたい」という意思をメンバーに伝えます。
そして、メンバーから断酒を自力で行っていくコツや対処方法などのアドバイスを受けながら断酒を行うのです。
ここで注意したいのが、断酒会に参加したからといって通院の必要性が0になるわけではないということです。
というのも、抗酒剤は処方箋医療品なため、医師から処方してもらわなければ購入ができないからです。
抗酒剤を使わない断酒方法を選択するという手もありますが、体験談を確認した限りでは、アルコール依存症の方で抗酒剤を使わずに断酒を成し遂げたという例はありません。
そのため、断酒会に通うとしても通院費用はかかると考えた方が良いでしょう。
メリット
- 費用を極力抑えることができる
- アルコール依存症患者と交流ができる
- 実際の闘病者としてのアドバイスや助言が得られるかもしれない
デメリット
- 医療関係者の助言ではないため、教えられた対処方法に医学的根拠がない可能性がある
- 助言を聞けるとも限らない
- 抗酒剤を使用する場合は、結局通院しなければならない
断酒会のメンバーはあくまで一患者に過ぎず、専門知識を持った医療関係者ではありません。
そのため、彼らから得られる助言やアドバイスはあくまで一個人としての意見であり、効果が確実に見込めるという保証はありません。
また、断酒会に行けば確実にアドバイスをもらえるわけではなく、そのグループに参加している各メンバーの人柄によります。
断酒をそれほど急ぐ必要がないのであれば構いませんが、今すぐに断酒をしなければならないほど切羽詰まっている場合は、最初から医療機関へ頼った方が良いでしょう。
断酒会のメンバーは医療機関で治療を行った人がほとんどなので、医療機関に頼らず断酒をしようとしている人は、まず通院することを勧められるかもしれません。
具体例
こちらの体験者は入院経験があるものの、最終的に断酒会に通うことで回復した経験者です。興味のある方は読んでみてください。
10年間止まらなかった酒が、断酒会で止まったのは、そこが自分の居場所だと思えたからだと思う。(「回復のカギ」アルコール依存症治療ナビ.jpより)

自力で行う
はっきり言って、アルコール依存症患者の場合、自力のみでの断酒は極めて難しいでしょう。
そもそも、自力で断酒できる人は、アルコール依存症ではない可能性が高いです。
アルコール依存症は自力で飲酒欲求のコントロールが取れなくなってしまう病気です。
つまり、自分で自分を抑えることができないのです。

だからこそ、依存症患者のほとんどは医師や家族、断酒会のメンバーといった第三者の力を借りて断酒します。
よく「自分は酔っぱらっていない」という人ほど酔っているという言葉を聞きますが、それと同じく「自分は自力で酒をやめられる」と思っている人ほどアルコール依存症の本当の恐ろしさを理解していない傾向にあります。
繰り返しになりますが、「やめたくてもやめられない」のがアルコール依存症という病気なのです。
もし、自力で断酒を行おうとしている人がいたら、自分の胸に手を当ててよく考えてみてください。
なぜ、断酒をしようと思ったのでしょうか?
その理由が酒による失敗なら、その失敗を過去に何度も繰り返したりしていませんか?
もし失敗を繰り返しているのであれば、勇気をもって第三者の手助けを求めてください。
アルコール依存症はただの風邪ではありません。
病気というのは自力で治せるものの方が少ないのですから、周囲の援助を頼ることは何も恥ずかしいことではありません。
断酒方法によって薬物療法に違いはあるか?
基本的に、医療機関に頼った断酒を行う場合、どの断酒方法であっても薬物療法に違いはありません。
アルコール依存症の断酒治療で使用する薬物には以下のものがあります。
- 抗酒剤(シアナマイド、ノックビンなど)
- 飲酒欲求を抑える薬(レグテクト、セリンクロなど)
- 抗不安薬・抗うつ剤
- 睡眠薬
一番使用する頻度が高いのは抗酒剤であるシアナマイドです。
シアナマイドはアセトアルデヒドの分解を阻害する作用を持っており、これによって服用した人間の体質を、一時的に酒が全く飲めない人の体質にしてしまいます。
このシアナマイドを飲むことで、物理的に酒を飲めない状況を作り、断酒を継続する手助けにするのです。

まとめ
進行性の病気であるアルコール依存症は、アルコールを摂取し続ける限り悪化していく病気です。
進行を食い止めるためには、酒を一切絶つ断酒が最良の治療方法です。
また、アルコール依存症は飲酒欲求のコントロールを奪う病気なので、自力のみでの断酒はほぼ失敗に終わると思った方が良いでしょう。
確実に病気を治療したいと考えている方は、できる限り第三者の力を借りて断酒に挑戦してください。
アルコール依存症は病気です。
それも完治しない、非常に厄介な病気です。
そのような病気を治療するために、誰かの手を借りることは恥ずかしいことでも何でもありません。
治療を検討している方はぜひ、周囲の誰かに勇気をもって頼ってみてください。


