このページではアルコール依存症の初期症状を解説します。
目次
アルコール依存症の初期とは?
アルコール依存症のステージは初期・中期・末期の3つに分かれています。
初期にいたるまでの段階はプレアルコホリズム(アルコール使用障害)と呼ばれ、アルコール依存症のステージゼロにあたります。
図で表すとこんな感じです。

アルコール依存症の初期は、精神依存と身体依存の両方が形成された段階のことをいいます。
精神依存とはアルコールに対する強い渇望・欲求のことで、身体依存とはアルコールを摂取しないと離脱症状(禁断症状)が出てしまう状態のことをさします。
アルコール依存症のスタート地点は習慣的な飲酒です。
週に数回必ず飲む日があるというような習慣的な飲酒を続けているとお酒に耐性ができ、飲酒量が次第に増えていきます 。
そんな飲み方を長期間続けていると、アルコールに対して精神的に依存しはじめ、「お酒を飲んでいないと生きていけない」「お酒がないと物足りない」といったお酒への強い執着心が形成されます。
この頃になると習慣的な飲酒が毎日飲む連続飲酒へと移り、ほろ酔い程度では満足できず、記憶をなくす(ブラックアウト)するほど飲んでしまうようになります。
また、明日に重要な会議があって遅刻できないというような状況下でもお酒を飲んでしまうといった、お酒を控えるといった行動ができなくなってきます。
その後もさらに飲酒をし続けると、身体的な依存も始まり、お酒が切れると手足の震え、寝汗、悪寒・微熱、不眠、下痢などの離脱症状(禁断症状)が発生します。
この離脱症状が起こるようになった段階を、アルコール依存症初期といいます。
初期でよく見られる行動
アルコール依存症初期の患者には、以下のような行動がみられます。
- ほぼ毎日飲酒をしている
- 飲酒をするために嘘をつくようになる
- 周囲や家族から飲酒を控えるよう注意されても決して止めない
- 酒を飲んでいないと不機嫌になる
- 手足の震え、寝汗、悪寒・微熱といった軽い禁断症状がみられる(風邪か体調不良と判断されることが多い)
- 酒の席でのミス、酒が原因のトラブルが増える
– 遅刻・欠勤、飲んだ店や家で吐くなどの粗相
– 酔いつぶれて周囲の人に家まで運んでもらう
– 飲酒運転で検挙
– 事故・怪我 - 患者本人も節酒をしようと試みる
初期の患者に見られる行動の特徴は、お酒を見境なしに飲むようになることです。
お酒の席でのミスやトラブルを連発し、周囲に散々迷惑をかけているにもかかわらず飲酒をやめようとはしません。
ここで誤解されやすい点は、患者自身も自分がしでかしたミス・トラブルへの反省を口にするくせに、次も同じようなことを繰り返してしまう点です。
「もうしないと言ったのにまたトラブルを起こした。ちっとも反省していないじゃないか」と迷惑をこうむった家族や友人、職場の人々は怒りを感じるかもしれません。
しかし、この時点ですでに、患者の脳は飲酒のコントロールができなくなってきています。
まだ完全に支配されたわけではありませんが、コントロールが困難な状態です。
つまり、一度アルコール依存症を発症した患者の反省は全く意味を持たないのです。
心底反省していたとしても、自分自身の飲酒に対する行動を制御できないのですから当然です。
また、患者本人も「このままではまずい」と自覚し、節酒を試みますが大抵は失敗します。
本人がやめようと努力する姿を見た家族は一時的に安堵し、「次はきっと大丈夫」と期待します。
しかし、患者は失敗を繰り返すだけなので、周囲の人間は患者への失望感を募らせていきます。
こうして、初期の段階で家族・友人・職場の人間関係にひびが入り、病気の進行とともに少しづつ崩壊していくのです。

初期の具体的な症状
初期でみられる症状は、離脱症状や異常なまでの飲酒への強い執着心です。
しかし、それ以外に関しては症状を聞くだけでは依存症であると断定しにくいとされています。
目に見える形で異常が見つからない
検査をしても数値に異常がみられない場合が多く、健康診断にも引っかからないため早期発見がしにくいです。
離脱症状が風邪・うつ病の症状と似ている
離脱症状には手足の震え、寝汗、悪寒・微熱、不眠、下痢といった症状がみられます。
しかし、これは風邪や体調不良と誤診されることも多く、症状だけでアルコール依存症と判断するのは難しいです。
また、酔いがさめた時にうつ状態に陥ることがあります。
実際はうつ病ではなくアルコール依存症の離脱症状が出ているだけなのですが、こういった状況で一般の精神科を受診するとうつ病であると誤診されてしまうことがあります。
余談ですが、こういった懸念からアメリカの精神科医専用のテキストには、「飲酒している患者でうつ病を疑う場合、アルコールを切って最低4週間経過を見てから診断せよ」との指示があります。
身体的・外見上の特徴がない訳ではない
初期の段階では、依存症であると断定できる身体的・外見上の特徴はほとんどありません。
ですが、アルコール依存症初期で入院した小石さんによると、小石さんには手掌紅斑という症状がみられました。
これは手の平や腕の内側に赤い斑点がぽつぽつとできるもので、場合によってはかゆみを伴う場合があります。
また、体臭や口臭からわずかにアルコール臭がするようになります。
不自然な発汗もアルコール依存症初期の特徴で、暑がりではないはずの人でもよく汗をかくようになる、運動もしていないのに突然汗をかくといった不自然な発汗もみられます。
初期の離脱症状
個人差はありますが、初期では以下の症状が起こります。
- はしや鉛筆を持つと先が震える
- 真冬でも寝汗をびっしょりかいてしまう
- 不自然な発汗
– 運動もしていないのに突然汗がどっと出る - 悪寒や微熱
- 不眠
- 全身の皮膚に針で刺したような痛み・かゆみを感じる
- 下痢
- 一週間以上続く便秘
- めまいや立ちくらみ
- うつになる
初期の離脱症状は中期・末期と比較すると軽いものですが、だからといって人体への影響も軽いわけではありません。
この段階からすでに肝臓や胃・小腸といった内臓へのダメージはかなり大きくあります。
ただ、「沈黙の臓器」と呼ばれる肝臓・胆のう・膵臓では、自覚症状がほとんどありません。
そのため、気がついたら重症化していたというケースは多いのです。

初期の心理状態
基本的に初期の段階では、患者本人にも自分がアルコール依存症であるという自覚はありません。
そのため、周囲から注意されても耳を貸さず「ちょっと失敗しただけで節酒をすれば問題ない」「自分はお酒をやめようと思えばいつでもやめられる」といった過信がみられます。
本人が依存症を疑って内科を受診しても、血液検査での異常が発見されないことが多く「自分はまだ依存症ではない」と勘違いして飲酒を続けてしまうこともあります。
しかし、アルコールによる脳の麻痺は着実に進んでおり、すでにこの段階でアルコールによる精神依存・身体依存は始まっています。
初期の段階では、まだ完全に脳のコントロールが失われた状態ではないため、この段階で治療を行えば他のステージ(中期・末期)から始めるよりもずっと回復が容易です。
初期での治療法
患者にアルコール依存症の疑いがある場合は、アルコール依存症の治療プログラムがある精神科・内科を受診するのがおすすめです。
一般の内科だと、あまり異常がみられないため見過ごされてしまう恐れがあります。(アルコール依存症の治療を行っている内科医の方もいます。)
また、アルコール依存症の治療は基本的に入院して行いますが、初期であれば通院しながら治療することも可能です。
ただし、患者自身の「治したい」という強い意志と、定期的な通院が必要です。
通院を途中でやめたり、医師の指示に反して自己流で治療しようとしたりしては、治療が失敗に終わる確率が高まります。

アルコールの『呪い』が不完全な時期
アルコール依存症初期を一言で表すなら、アルコールの『呪い』が不完全な時期です。
初期の段階であれば、アルコールによる脳の支配は不完全で、脳のコントロール権を完全に明け渡したわけではありません。
いうなれば、アルコール依存症初期と診断された人は、引き返す絶好のチャンスなのです。
アルコール依存症という診断を受け、「自分はダメ人間の烙印を押されてしまった」などと嘆く必要はありません。
今までしでかしてしまったことをやり直すためにも、自己分析をしっかり行い、胸を張って治療に取り組みましょう。

