成れの果てに待つ病。アルコール性認知症

大量のアルコールは脳へダメージを与えます。

大量でなくとも、長期間、習慣的に酒を飲み続けていると、脳の神経細胞が破壊され、脳萎縮が起こります

脳萎縮の詳しいメカニズムについては、別ページ「アルコール依存症と脳のリスク」をご参照ください。

脳萎縮が進行するとアルコール性認知症になってしまいます。

このページではアルコール性認知症について、一般的な認知症との違いも説明しつつ、詳しく解説していきます。

制作協力
このページの制作には、アルコール依存症初期で精神病院へ入院された小石(仮名)さんにご協力いただいております。小石さんは入院中に他の依存症患者の方と共に治療プログラムに参加されていました。現在は断酒での治療に取り組まれています

アルコール性認知症とは

文字通り、アルコールが原因の認知症です。

アルコールを長期間、休肝日を設けることなく毎日習慣的に飲み続けていると、脳の神経細胞は徐々に破壊され、脳萎縮が進みます。

ダメージの度合いを具体的な病名で段階ごとに分けると、

ウェルニッケ脳症

コルサコフ症候群

アルコール性認知症

とダメージが大きくなればなるほど脳の萎縮は進行し、アルコール性認知症になるリスクは高まります。

また、アルコール性認知症はアルコール依存症の末期でみられる病気です。

末期症状身体はボロボロ…アルコール依存症の末期症状

言い方は悪いですが、アルコール性認知症はアルコール依存症患者の成れの果てに待つ病気ともいえるのです。

厚生労働省に寄せられた調査報告で、高齢者を対象とした調査結果に興味深いデータがあります。

それによると、施設に入所している認知症の高齢者、その約29%が「大量飲酒が原因で認知症になってしまった」人であるというのです。

つまり、10人のうち約3人がアルコール性認知症であるということです。

注意
アルコール性認知症と診断された人の中には、ウェルニッケ脳症やコルサコフ症候群の人も含まれているとの指摘もあります。また、研究者によっては、アルコール性認知症はウェルニッケ脳症やコルサコフ症候群と同じだとの意見もあります

その他にも、5年以上に渡ってアルコールを乱用した人、もしくは大量飲酒の経験がある高齢男性は、そういった経験がない高齢男性と比べて認知症になる確率が4.6倍うつになる確率が3.7倍になると示されています。

すなわち、酒を大量に飲んでいる人は飲んでいない人より認知症になるリスクが高いのです。

発症する人の特徴

アルコール性認知症は年齢・性別にかかわらず、長期間大量のアルコールを摂取し続けると、誰にでも発症のリスクがある病気です。

まだ若い(40~50代)の人でも、休肝日を設けずに酒を習慣的に飲んでいれば発症する可能性があります。

発症につながる飲酒

アルコール性認知症はアルコール依存症の末期症状でもあります。

そのため、アルコール依存症になるよりも長い期間を経て、アルコール性認知症は発症します。

しかし、おつまみ無しで、何も食べずに飲酒を続けると、人によっては数年で発症してしまうケースもあるといわれています。

また、アルコールが体内に留まる期間が長ければ長いほどアルコール依存症のリスクは高まり、結果としてアルコール性認知症になる確率も高まります。

アルコール性認知症の原因

アルコール性認知症の原因は大ざっぱな括りでいうと「アルコール」ですが、アセトアルデヒドによって脳神経細胞が破壊される脳萎縮以外にも原因があります

  • 多発性脳梗塞などの脳血管障害
  • ウェルニッケ脳症による栄養障害
  • 糖尿病
  • 肝硬変
  • 頭部外傷

アルツハイマー型認知症との違い

一般的に認知症と呼ばれる病気はアルツハイマー型認知症と呼ばれるものです。

アルツハイマー型認知症とアルコール性認知症では、脳の神経細胞を破壊する物質が異なります。

アルツハイマー型認知症は、脳内にアミロイドβペプチドという特殊なたんぱく質が溜まって脳の神経細胞が破壊されることが原因の認知障害です。

それに対して、アルコール性認知症では、血中のアルコールが酸化されてアセトアルデヒドとなり、アセトアルデヒドが脳の神経細胞を破壊することによって脳萎縮が起こり、結果として認知障害を発症します。

つまり、脳の神経細胞を破壊する物質がアミロイドβペプチドかアセトアルデヒドかの違いなのです。

とはいえ、アルコール性認知症患者は他の種類の認知症を併発(同時に2つ以上の病気を発症)してしまうこともあり、一般的な認知症との区別がつけにくいといわれています。

論文「アルコール依存症に併発する認知症」によると、断酒後も認知機能の悪化がみられる場合は他の認知症の合併が疑われるとのことです。

アルコール性認知症の初期症状

アルコール性認知症の初期症状は他の認知症の症状と大変よく似ています。

具体的には以下の症状がみられます。

  • 歩行が不安定、真っ直ぐに歩くことができない
  • 物忘れが酷くなる
    – 家族の名前が思い出せない
    – ついさっき自分が言った内容を覚えていない
  • 以前好きだったことや趣味に興味を示さなくなる
  • 突然暴力的になる
  • 理由なく笑いだす
  • 見当識障害
    – 昔話を捏造する
  • 行動にモラルがなくなる
    – 欲しいと思った他人の物を盗む
    – お腹が減ったので他の人の食事を食べてしまう

認知症とは、私たちが日常で無意識に行っている認識・判断ができなくなる病気です。

そのため、アルコール性認知症に限らず、認知症になってしまうと日常生活を送ることが難しくなってしまうのです。

アルコール性認知症は治るのか?

アルコール性認知症は断酒をすればある程度は回復します

ただし、萎縮した脳が元通りになることはありません。(「アルコール依存症と脳のリスク」参照)

脳はもう以前のような健康な状態に戻りませんが、認知機能や物忘れなどはいくらか改善されます。

ただし、脳へのダメージが大きい場合は「現状維持」が治療方針になります。

アルコール性認知症が治るかどうかは、その人の脳がどの程度ダメージを受けているかによるため、アルコール依存症と同じく「完治はしないが回復する病気である」という言い方になります。

まとめ

アルコール性認知症は他の認知症と異なり、回復が見込める病気です。

不治の病である「認知症」というワードに絶望する必要はありません

断酒さえすれば、認知機能や物忘れが回復しますし、他の内臓疾患の治療もスムーズに進みます。

今好きなだけ飲酒されている方は、少しだけ、ご自身の飲酒生活を振り返ってみてください。

休肝日はちゃんとつくっていますか?

おつまみも食べずに、酒ばかり飲んでいませんか?

飲み会のたびに二日酔いになってはいませんか?

これらに心当たりがある人は要注意です。

まずは自分自身で飲酒量をコントロールできているかチェックをするところから、ぜひ始めてみてください。

アルコール依存症と脳のリスク アルコール依存症と脳のリスク 末期症状 身体はボロボロ…アルコール依存症の末期症状

2 COMMENTS

ウラ

アルコール性認知症の話を非常に興味深く、読ませていただきました。自助グループでのミーティングは言いっぱなしの聞きっぱなしが前提ですので何を言っても自由なんですが、明らかにそれ作ってるだろーという話を自慢げに何回も繰り返して言う方が何人もいます。(高齢で何回も入退院を繰り返していらっしゃる方)妄想と現実のはざまを行き来していて、自分の言ってる嘘がいつの間にか現実ということなってる人。確かに末期ですね。聞いてる方も、結構つらいんですよ。

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タチバナテン

私は自助グループのミーティングには長らく参加しておらず、貴重なコメントをいただけたことを大変感謝いたします。アルコール性認知症まで症状が進んでしまう前に、なんとか進行を食い止めてほしい(アルコール依存症である自分への思いも込めて)と思います。本文内で「飲酒するならおつまみアリで」といったことを書きましたが、飲み方でも随分変わるようです。社会全体として飲酒リテラシーがもっともっと高まってほしいと願っています。

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