皆様はお酒に含まれるアルコールが、実は大麻以上に依存性が強い物質であることをご存知でしょうか?
アルコール依存症はだらしがない人がなるものでも、意志が弱いからなるものでもなく、れっきとした脳の病気なのです。
このページではアルコール依存症の原因について、実際に当事者の経験に基づいて徹底調査しました。誤解されやすい依存症について、多くの方が事実を知っていただければ幸いです。
目次
「お酒が人をダメにするんじゃない」
故・立川談志師匠の名言にこのような言葉があります。
『酒が人をダメにするんじゃない。人間がもともとだめだということを教えてくれるものだ。』
立川談志
この言葉は果たして真実なのでしょうか?
アルコール依存症の人というと、「ダメ人間」「だらしがない」といったイメージを思い浮かべる方は多いでしょう。
「一杯だけ」と言いつつ結局酔いつぶれるまで飲んでしまう。
家族や周囲に散々迷惑をかけているのにお酒を手放そうとしない。
きっともともと意志が弱くてやる気のない、どうしようもない人なんだ。
そう誤解していませんか?
アルコール依存症はれっきとした病気。
それも脳に起こる病気です。
アルコールを長期間に渡り摂取し続けると、脳の回路がおかしくなってしまうのです。
その人がもともとダメな人間だからではなく、長期的にお酒を摂取した結果、お酒がその人の脳をダメにするのです。

アルコール依存症の原因は?
アルコール依存症は、その人の性格がだらしないからなるものではなく、遺伝的要因や生活環境といった外部的な要因から発症します。
インフルエンザが誰にでもかかる病気と同じように、アルコール依存症も誰にでも起こりうる病気なのです。
また、アルコール依存症はある日突然なるものではありません。
どんな人でも習慣的な飲酒を長期間続けて入れば、アルコール依存症になる可能性は高くなります。
アルコール依存症の原因は主に3つあります。
- 遺伝的要因(アセトアルデヒドの分解能力が高い)
- 長期的な飲酒による脳の神経回路の麻痺
- 弱い自分を認められない
遺伝的要因(アセトアルデヒドの分解能力が高い)
アセトアルデヒドは全てのお酒に含まれる物質です。
アセトアルデヒドの分解能力が高い人は、能力が低い人よりたくさんのお酒を飲むことができます。
そうなると、お酒の摂取量も摂取する頻度も増えるため、結果としてアルコール依存症になりやすくなってしまいます。
依存症治療の専門病院の研究によると、アルコール依存症患者の3人に1人がアルコールを乱用する親を持っているといわれています。
長期的な飲酒による脳の神経回路の麻痺
お酒を飲んだ際にフワフワと感じる気持ちの良さは、お酒に含まれるアルコールが脳の神経細胞を刺激するためです。
お酒を飲んだ際に得られる快感を脳は強く記憶し、アルコールの刺激が無くなると、もう一度あの快感を得たいという欲求が起こります。
これが飲酒欲求です。
長期間アルコールを摂取し続けると、脳は常に快感の刺激を受けている状態になり、麻痺してだんだんと刺激に鈍感になっていきます。
そうなると脳はさらに強い刺激を求め、もっとアルコールを摂取しようと大量のお酒を飲むようになります。
こうして脳が「もっと強い快感を得たい」「もっと強い刺激が欲しい」という負のスパイラルにはまってしまうと、飲酒のコントロールができない状態になり、アルコール依存症になってしまうのです。
弱い自分を認められない
アルコール依存症に関わらず、何かに依存する人の共通点は自分が依存対象に依存していることを否認しようとします。
なぜなら、周囲に依存していることがバレ、依存対象を取り上げられてしまうことを恐れているからです。
依存症患者の多くは、心にぽっかりと穴が開いたような「満たされない苦しみ」を抱えています。
この「満たされない苦しみ」の原因は孤独感や、自分自身のコンプレックス、トラウマなど様々です。
もし、その人が「欠けていても自分は自分だ」と、弱い自身を認められる自己肯定感の強い人であれば多少の困難に直面してもやっていけるかもしれません。
もしくは、周囲がその人のありのままを受け入れてくれる環境であれば、苦しみを乗り越えられるかもしれません。
一方で、自己肯定感の低いネガティブな人や、周囲がその人を否定することが多い環境で生きている人であれば、欠けている自分が許せず、満たされない苦しみを身近な何かで埋めようと躍起になります。
溺れている人が浮かぶ流木にしがみつくように、身近な何かにしがみつこうとします。
依存症患者が依存対象に執着するのは「依存対象がないと生きていけない」「欠けた自分では周囲から認めてもらえない」という強迫に近い思いに囚われているからです。
こういった弱い自分を認められない人、認めさせてもらえない人はアルコールでなくとも、別のものに依存してしまうケースが多く見られます。
なぜお酒にはまったのか?
そもそも、お酒にはまってしまった原因は何なのでしょうか?
アルコール依存症患者への実際の調査を通して浮かび上がったのは「現状をどうにかしようと模索した結果、お酒にはまってしまった」という事実です。
アルコール依存症は、お酒にはまってしまった人からどんどん発症していきます。
ストレスの対処法として
仕事の疲れや夫婦関係のトラブルといったストレスの解消法として飲酒を選んでしまう人がいます。
こういった人はストレスを感じるたびに飲酒をするため、習慣的に長期間お酒を飲んでしまいます。
その結果、脳の神経回路が麻痺してしまい、アルコール依存症になってしまうのです。
人付き合いや居場所を求めて
「お酒を飲むと性格が明るくなるから人付き合いがしやすい」
「お酒の席は賑やかだから寂しくない」
こういった理由からお酒を飲んでしまう場合もあります。
また、会社での飲み会などの付き合いは仕事に関わってくる場合もあり、参加せざるを得ないケースが多々あります。
周囲にも「飲まなければダメ」といった暗黙のルールがあるため、お酒を断りにくく、結局周りからの圧力で飲酒をしてしまったという人も少なくありません。
こうしたアルコールハラスメント(アルハラ)もアルコール依存症を生み出す土壌となっています。

不眠や現実の苦しみから逃れるために
不眠で眠れない苦痛から逃れようと寝酒をしてしまう人や、うつ病の症状を緩和させようとして飲酒をしてしまう人がいます。
お酒を飲むと脳の神経細胞が一時的に麻痺した状態になるので、現実の苦しみや問題から一時的に目を逸らすことができます。
ですが、寝酒による睡眠は通常の睡眠よりも眠りが浅く、不眠症状を悪化させてしまいます。
また、お酒を飲んだ後はうつ状態に陥る可能性もあるため、さらに現状が悪化してしまう場合もあります。
気分転換、娯楽として
お酒を気分転換や娯楽として飲んでいたというケースがあります。
「周囲の環境に飲酒以外の娯楽がない」「趣味がないから手軽に手に入るお酒で気分転換していた」という人も多いです。
また、子供の頃から大人が気持ち良さそうにお酒を飲んでいる環境で育った人は、お酒=良いものというイメージを持ち、大人になったら自然とお酒を飲むようになります。
アルコール依存症は治るのか?
原因が明確になり、それを取り除けばアルコール依存症は治るのでしょうか。
残念なことに、アルコール依存症はその原因を取り除いても治りません。
繰り返しになりますが、アルコール依存症は脳の病気です。
脳の狂ってしまった神経回路は元に戻ることはありません。
周囲の手助けや、抗酒剤の摂取、通院など、外部からの補助が必須です。
アルコール依存症は自己流で治そうとすると失敗するケースが多いので、治療する場合はまず精神科や依存症治療を行っている病院に相談してみましょう。

またお酒を飲めるようになるのか?
基本的に、一度アルコール依存症を発症すると、それ以前のように普通に飲酒することはできません。
断酒(お酒を一滴も口にしない)か、通院しつつ飲酒欲求を抑える薬を飲みながら減酒するしかありません。
減酒の場合は定期的な通院に加え、摂取したアルコール量を正確に記録し続ける必要があります。
アルコール依存症はコントロールが効かなくなってしまう病気なので、一度でもお酒を飲むと「お酒を飲みたい」スイッチがONになってしまい、依存症が再発してしまうのです。
そのため、依存症と診断された場合は断酒するのが治療の基本です。

まとめ
コンビニやスーパーでも手軽にお酒が手に入る現代、アルコール依存症の原因は日常的に転がっています。
時間をかけてじわじわと進行する依存症は、本人にも依存状態の自覚がないことが多いです。
そして、その原因を取り除いても、アルコール依存症は治りません。
原因はあちらこちらに転がっているのに、一度発症してしまうと簡単には治らない。
アルコール依存症は予想以上に恐ろしい病気なのです。

