減酒治療では、1日に摂取してもいい純アルコール量を事前に決め、そのルールを守りながら飲酒できるように、薬物療法・飲酒記録・定期的な通院をおこないます。
もちろん、飲酒量を減らせば肝機能が改善されてダイエットや肌荒れ改善などの効果が期待されますが、このページでは減酒治療ならではのメリット・デメリットを解説します。
また、それと合わせて減酒治療を成功させるコツを紹介します。
減酒治療を検討している方は是非参考にしてみてください。
減酒のメリット・デメリット
減酒治療を行うと、身体機能が回復するため、以下のような効果が期待できます。
- 痩せる(ダイエット効果、むくみ改善、小顔効果)
- 肌荒れ改善(ニキビや乾燥肌に効果あり)
- 免疫機能亢進
- 食欲増進
- 寝つき改善
しかし、これらは断酒で得られる効果でもあります。
以下は、減酒に絞ったメリット・デメリットをご紹介します。
断酒についてはこちらをご覧ください。

減酒のメリット
減酒治療には断酒では得られない、減酒ならではのメリットがあります。
- 酒が飲める
- アルコールハラスメントを受けにくい
- 酒に関する人間関係を崩さず済む
一つ一つ、見ていきましょう。
酒が飲める
最大のメリットは、酒が飲めることでしょう。
アルコール依存症患者の大半は酒好きです。
アルコール依存症患者にとって、「酒を一切飲んではいけない」断酒という行為はハードルが高いと感じてしまいます。
減酒治療は制限こそ設けますが、酒を飲みながら治療します。
断酒のハードルの高さに難色を示している方は、減酒から治療を始めるのも手です。
アルコールハラスメントを受けにくい
これまで好き勝手に飲酒していた人が急に断酒をすると、アルコールハラスメントを受ける恐れがあります。
世の中には体質的に飲めない人も存在しますが、アルコール依存症患者の場合はそうではなく、むしろ酒好きであることを周囲は知っています。
わかりやすいアルコールハラスメントは、
「何ビビってんだよ」
「飲めよ」
「おれの酒が飲めないのか」
といったストレートなものですが、中には善意に基づくハラスメントもあったりするので厄介です。
私タチバナの断酒中の実体験では以下のようなセリフが印象的です。
「せっかくの飲み会なんだから、一杯くらい良いじゃない」
「送って帰ってあげるから、心配いらないよ」
「ご家族には僕から謝るから」
断酒を周囲に伝えているにも関わらず、こういったことを言われてしまうと困ります。
断酒が十分に周囲に浸透するまでの間、勧められては断ることの繰り返しです。
断ることが得意な方であれば気にならないかもしれませんが、断ることに精神的な負担を大きく感じる方にとっては、断酒は難しいといえます。
私は、以前は断酒、現在は減酒で治療をおこなっています。
断酒時の飲み会では、終始酒を勧められたことが何度もありました。
反撃されないと分かっていてイジメがエスカレートするように、手を変え品を変え、周りは面白がって酒を勧めてきます。
私も手を変え品を変え断るわけですが、正直、断り続けるのは大変面倒です。
上司からは
「そもそも、なぜセーブできないんだ」
「こうすればセーブできるんじゃないか」
「飲みながら修正すれば良い」
と、もはや不要なアドバイスが繰り返されます…
悪意がなかったとしても、これもまた対応が面倒です。
1杯たりとも飲まない断酒となると、私の場合はやけに目立ってしまい、話のネタになりがちでした。
一方で、減酒に切り替えてからは、周囲から「セーブしてるんだな」程度で思われるのか、しつこく勧められることが無くなりました。
周囲の環境にもよりますが、断りづらい環境下では減酒は精神衛生上良いというのが私の感想です。


酒に関する人間関係を崩さず済む
飲み会などで築き上げた人間関係を崩さなくて済むこともメリットとして挙げられるでしょう。
酒が共通の趣味である飲み友達がいた場合、断酒をして友達と疎遠になってしまうこともあるでしょう。
私の場合、ほとんどの人間関係を飲みの場で築いてきていたので、断酒後は強い孤独感を感じました。
実際に会わなくなってしまった友達もたくさんいます。
断酒しているからといって、飲みに誘ってはいけないというルールはありませんが、実際に飲むわけにはいけません。
とすると、私は、自分から「飲みに行こう!」と誘うのに、違和感を感じてしまいました。
もちろん「飲み」だけが娯楽ではありませんが、「飲みに行こう!」が断酒スタート後に、「お茶に行こう」や「買い物に行こう」などに変わるかというと、なかなかそういうものではありません。
飲みに誘われることも減ります。
それは断酒する上では良いことかもしれませんが、同時に寂しいことでもありました。
しかし、減酒であれば、誘うことや誘われることに関して、治療開始前と変わらぬスタンスでいられます。
もちろん酒を飲むスタンスは変えなければなりませんが、酒ゼロでなくて良いというのは幾分やりやすいのも事実です。
また、サラリーマンで営業などに携わっている人であれば、取引先と飲みに行くこともあるでしょう。
仕事の飲み会で「飲めない」と言ってしまうと、場合によっては付き合いが悪いと思われる恐れがあります。
むろん、飲めないからといって非難されるいわれは全くありませんが、仕事が絡んだ人間関係は悪化させたくありません。
減酒治療であればそういったことも回避できるので、仕事上、酒の付き合いがある人には断酒より減酒治療の方が向いているかもしれません。

減酒のデメリット
減酒治療はメリットばかりではありません。
治療する場合は、以下のことも頭に入れておくといいでしょう。
- 過剰飲酒につながりやすい
- 情報交換がしにくい
- 減酒治療を行っている病院が少ない
一つ一つ、見ていきましょう。
過剰飲酒につながりやすい
減酒治療では1日に摂取してもいい純アルコール量を事前に決め、そのルールを守りながら飲酒できるように、薬物療法・飲酒記録・定期的な通院をおこないます。
こうして読んだだけでもかなり面倒です。
「通院が面倒だな」
「毎日記録しなくても、後からまとめて記録すればいいや」
「薬飲み忘れちゃったけどいいか」
「1杯くらい多めに飲んでも、まぁ大丈夫だろう」
やることが多い分、手を抜けるポイントも多いです。
そして、手を抜き、気が緩み始めると、いとも簡単に過剰飲酒へと繋がります。
情報交換がしにくい
減酒には、患者同士が集まって情報交換や意見を話し合うための自助グループがありません。
皆が断酒を目標にしている断酒会に参加することも、減酒治療を選択している以上、基本的にはできません。
断酒している方の中には、減酒に否定的な方がいらっしゃるのも事実です。
そのため「同じ治療を行う患者同士で励まし合う」「問題を共に考える」といった患者同士の繋がりが弱く、治療は自分と向き合う孤独な戦いです。
近年はブログやTwitterなどで報告し合うといった繋がり方も見られます。
それでも、実際に会って励まし合う自助グループの安心感と心強さに比べれば、やはり劣ってしまう点もあるでしょう。
もしこの記事を読まれた方で自分自身が減酒治療をおこなっている方、または、そのご家族の方がおられましたら、ぜひ私のTwitterをフォローしてみてください。
ぜひつながりましょう。
ともにアルコール依存症と戦いましょう!
私のTwitterアカウント:
https://twitter.com/genshuWEB
減酒治療を行っている病院が少ない
減酒治療の最大のデメリットは、治療する場が少ないということです。
減酒治療は2017年にスタートしたばかりの新たな治療方法です。
そのため、全国への普及にまだ至っておらず、特に地方においては、近くに減酒外来を設けている病院があるということのほうが少ないでしょう。
減酒外来のある病院は別のページでリストアップしています。
決して数は多くありませんが、参考までにご確認いただければと思います。

減酒を成功させるコツとは?
減酒治療を成功させるコツは、以下の3点をきっちりおこなうことにあります。
- アルコール依存症を治療したい意志を強く持つ
- 服薬・記録・通院を習慣化する
- 酒の悩みを話せる場所をつくる
アルコール依存症は完治しないという意味で「死ぬまで治療」。
何をもって成功とするかは難しいところではありますが、この3点にきっちりおこなえば治療は上手くいくと、私は信じています。
減酒治療は基本的に患者の意志によって行われます。
通院があるとはいえ、入院して病院の監視下で治療するわけではないので、監視の目はかなり緩いです。
服薬についても、飲んでも飲んでいなくても見た目上に変化はありませんし、記録についても、誤魔化してしまうこともできます。
当たり前ですが、それをしていては減酒治療の意味がありません。
患者自身が「とにかく治療したい」という強い意志を持ち、自分のルールに従ってきっちり治療していく必要があります。
また、服薬・記録・通院は最初こそ面倒に思えますが、一度習慣化してしまえば忘れずにできるようになります。
また、これは減酒に限らずアルコール依存症治療を行う患者すべてに言えることですが、「酒の悩みを話せる場所をつくる」ことは非常に重要です。
飲酒欲求をコントロールできない苦しみは、実際に病気になった人にしか分かりません。
病気になったことのない人に相談しても、
「やめたいと強く思っていればやめられる」
「これだけ周りに迷惑をかけているのにまだ飲みたいと思ってるの?」
と返されてしまうことでしょう。
自分の悩みをずっと抱えているのはしんどいものです。
そうした事態を避けるためにも、自分の悩みを吐き出せる場所を作っておくことは非常に重要です。
最近はブログやTwitterでアルコール依存症の闘病アカウントを作っておられる方も大勢います。
皆さんも是非参考にしてみてください。
まとめ
アルコール依存症治療で一番恐ろしいのは、自分の治療が上手くいっていると感じたときに、「ちょっとぐらい飲んでも大丈夫なんじゃないか」と思ってしまうことです。
しかし、アルコール依存症は脳の病気で、一度失った脳のコントロールは決して治りません。
そして、酒を飲みつつ治療する減酒では「治ったかも?」という錯覚との距離が近いのも事実です。
そういう意味では、断酒以上に自分を律する側面があります。
しかし、もし減酒での治療が上手くいくのであれば、引続き酒が飲めます。
酒が飲めるということが大きなメリットだと感じるのであれば、治療が上手くいくよう決して油断せず、服薬・記録・通院を習慣化して着実に減酒治療を行いましょう。
私もがんばります。


