アルコール依存家族とアダルトチルドレン [後編]

アルコール依存症という病気は、自分だけでなく、家族にも悪影響を与えます。

両親のアルコール依存症の影響でアダルトチルドレン(AC)となったFさんの体験記を掲載いたします。

前編・中編・後編の全3回の後編です。

前編・中編をまだお読みになっていない方はこちらを先にどうぞ。

アダルトチルドレン[前編]アルコール依存家族とアダルトチルドレン [前編]アダルトチルドレン[中編]アルコール依存家族とアダルトチルドレン [中編]

[後編] はじめに

フロイトの精神分析用語に「反復脅迫」という言葉があります。

幼児期に家族、特に親との関係の中で傷ついた体験は、それから先の人生の中で、人を代え、場所を代え、同じような事象を引き寄せ、傷つく結果を何度も繰り返してしまうというものです。

どんなに不快な結果であろうとも、子供のころのその瞬間、回避行動が優先されて味わえなかった感情を受け止めるまでそれは終わることはありません。

ACの人生は、まさにこの反復脅迫の連続です。

それは、何の力も持たない子供時代に、命を護ってくれるはずの親から、逆に命を奪われるかのようなショックな言動を受け続けて、感情を味わう余裕も、人間としての情緒が発達する機会も与えられず時間だけが過ぎてしまったからです。

感情はそのとき感じなくても、無くなることはありません。

大人になってから少し余裕が出来たとき、子供のころにスルーせざるを得なかったその感情が、なにか事柄を起こしては助けを求めて上がってきます。

そのとき人はまた同じ痛みを感じることを恐れて、逃避行動を取ります。

一番手っ取り早く感情の痛みを抑えられる方法。

それは、子供のころから慣れ親しんだお酒です。

親がしていたようにアルコールを浴びるように飲んで、毎日飲んで、上がってくる心の痛みを抑え込んで、アルコール依存症の親を持つACは、その人自体もアルコール依存症になっていきます。

破壊する

ACの家庭は、生まれたときから人間関係が崩壊しています。

私の家族も、私が生まれたときには、互いにいがみ合うか無視をするかというような極端で最悪な関係性でしたが、その状態の家族が私にとっては「正常」なあり様でしたので、長らくその狂気的ともいえる状態に顕在的(自分で意識して)に疑問を持つことはありませんでした。

想い合ったり、話し合ったり、相談し合ったりという、人間同士が良好に関係を築くための高等な行為など全くない中で、私はそれらを学ぶことなく大人になりました。

しかも、家庭内の雰囲気や環境は一日のうちでも目まぐるしく変わります。

朝穏やかに談笑しながら朝食を食べていたとしても、ヒステリックな母親の癇に障る何かのスイッチが押されれば、それは常に攻撃を受けるような緊張状態に変わりますし、夕方誰かがお酒を飲みはじめれば、それまでどんなに穏やかに過ごした一日だったとしても、罵声が飛び交う地獄絵図に変わります。

私の家は毎日が朝令暮改で、一日たりとも何かが「成し遂げられる」ことはありませんでした。

例えば、前々から約束していたお出かけが親の二日酔いで中止になったり、親から許可をもらって買ったはずの文房具やお菓子を見て激昂されたり。

何かがいつも180度変わってしまう環境の中で、何をすれば正解なのかわからず、豹変する親の考えや態度についていけない小さな子供の私の頭と心は毎日パニックでした。

こうしてACは自分の家族から、人と人との「信頼」という気持ちを「破壊」していく行為、人、組織がこの社会の基本だと学びます。

学校や会社で約束を守ることや嘘をつかないことが人間として大事なことだとそれまでと逆のことを学び、頭では理解している気になっていても、幼い頃にインプットされた「破壊」のパターンを払しょくすることができません。

そして大人になるにつれて人間としての理性やマナーと、本意ではない「破壊」という自分の行動との分離がますます大きくなり、ACは自分を肯定して生きていくことが困難になっていきます。

[後編] まとめ

私自身は、今、アルコール依存の症状はありませんし、アルコールに呑まれたことが原因で人に迷惑をかけるようなことも今のところありません。

ただ、上で書いたような反復脅迫はいつも生活の中で起こっています。

人との信頼を破壊する、約束を守らない、嘘をつく、謝らない、非難するなどの行為を常に引き起こし、何度も人間関係をだめにしてきましたし、今でもその衝動的な行為に苦しんでいます。

今まではそんな自分を、親がしてきたのと同じように見下し、非難してきましたが、それでは何も解決しないと知ってから、自分との付き合いを少しずつ変えてきました。

今の私にできることは、自分に優しくあること、常に見守ること。

「破壊」の衝動にかられず踏みとどまった自分に「良く頑張ったね」と声をかけ、それでも呑まれてしまったときには「よし、またトライしよう」と寄り添う。

それは、アルコールやドラッグ依存の治療と同じです。

今日は飲まなかった、破壊にかられなかった、そんな一日の積み重ねが、少しずつ自分自身や人との信頼を作っていきます。

そしてそれが、自分を好きになること、自分の人生を取り戻すことへの小さな小さな火種となります。

アルコール依存やACからの立ち直りに、特効薬はありませんし、全員が治る治療方法もありません。

私がここまでなんとか生きてこられたのは、そんな自分でもあきらめたくない、この苦しみから救われたい、という気持ちをどこかで信じていたからでした。

今はその想いと積み重ねが、トンネルの先に見える小さな希望の光となっています。

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