アルコール依存症の治療を進めるうえで、医師から必ず勧められるのが断酒会への参加です。
とはいえ、アルコール依存症はかなりデリケートな話。
周囲に依存症のことをバレないように生活している方も多くいらっしゃるでしょう。
いきなり見ず知らずの会に参加しろといわれても躊躇してしまいますよね。
そこで、今回はアルコール依存症治療のアフターケアでよく勧められる、断酒会の実態について徹底調査しました。
「断酒会ってどんな人が集まるの?」
「断酒会に通うとどんなメリットがあるの?」
そんな悩みを持つ人は必見の内容です。
目次
断酒会ってどういうもの?
断酒会について説明するにはまず、自助グループの説明をしなければなりません。
自助グループとは、
ある障害を持つ者同士がお互いを励まし合いながら、その障害を様々な形で克服していくための集団
厚生労働省 e-ヘルスネット
です。
この自助グループの原型となったのが、1930年代に設立されたアルコール依存症患者によるAA(アルコホーリクス・アノニマス)です。
断酒会はこのアメリカで設立されたAAをモデルに、日本で設立されたアルコール依存症患者のための自助グループなのです。
断酒会は規模の大小こそあれ、全国に約530の組織があり、これを全日本断酒連盟(全断連)がまとめています。
断酒会の主な活動は、20名ぐらいが集まる中で患者が自分自身の酒害体験(酒が原因のトラブル・失敗)を話し、それを聞くことです。
この断酒会には、患者の家族が参加することもあります。
断酒会はアルコール依存症治療において、必ずといっていいほど参加を勧められます。
入院や通院をしている人であれば、病院で行われる断酒会に参加するケースもあります。
断酒会の真の効果
ここまで読んだ人の中には「え?体験談を聞くだけ?」と疑問に思う方もいるでしょう。
しかし、断酒会のような自助グループの活動は、「当事者研究」とも呼ばれる立派な治療法の一つなのです。
当事者研究とは、患者がお互いの経験を分かち合うことで、自分自身が抱える問題の原因や対策方法を模索していく、いわば当事者(患者)が行う、当事者のための研究です。
他人の意見を聞くことで自分の体験を客観的に見つめ直し、「あのときどうすれば防げたか」「何が最善の方法だったか」を患者自身が考えることで、自分の納得できる答えを見つけます。

アルコール依存症の場合、患者によっては病気への否認感情が強く、「自分はまだマシだ」「自分は病気ではない」と考えている人もいます。
実際にアルコール依存症患者として入院していた小石さんは、否認感情の強い患者にこそ断酒会は有効であると主張します。
なぜならば、他者の実体験を聞くことで患者が自身の行動を振り返る習慣がつき、本心を話す機会を与えてくれるからです。
否認感情が強い患者は、自分の過去の失敗から目を逸らし、現実逃避をする傾向にあります。
入院中の小石さんはまさにその状態でした。
自分の現状を「惨めだ」「情けない」と強く思えば思うほど、逃げ出したくなる気持ちが強くなってしまうのだそうです。
断酒会は、医師や家族の忠告に耳を貸さなかった患者にも、自分から立ち直るきっかけを与えてくれる貴重な場でもあるのです。
これを使わない手はありません。
断酒会に参加するメリット・デメリット
断酒会への参加が治療につながるということは理解していただけたかと思います。
ここではさらに断酒会を知ってもらうため、断酒会に参加することのメリットとデメリットをまとめました。
メリット
- 自分の体験談を話し、他人の話を聞くことで自分の過去を整理できる
- 自分の過去の失敗を振り返る習慣がつく
- 他人の問題の解決策を模索することで、自分が抱えている問題の解決への糸口が見えてくる
- 同じような体験をした者同士として、本心を吐き出せる居場所ができる
- 話題を強要されない(話したくないことは話さなくても良い)
デメリット
- 時間が取られる
- 人前で話さなくてはならない
- どういった人が参加するか事前に把握できない
- 数百円だがお金がかかる(強制はされない)
AAと断酒会は何が違うの?断酒会の種類について
AA(アルコホーリクス・アノニマス)は最初に設立された自助グループであり、アメリカのアルコール依存症患者のための集会です。
一方、断酒会は日本のアルコール依存症患者のための自助グループです。
「アルコール依存症患者のための自助グループ」という点では、AAと断酒会はほぼ同じと言ってもいいでしょう。
AAは匿名参加、断酒会は表立って「私は〇〇と申します」といったことは無い(私の経験の範囲内です)ものの実名参加である点は異なります。
また、断酒会には集会のミーティング様式によっていくつかの種類があります。
- オープンミーティング
– 医療、行政、家族の方など本人(患者)以外も参加が可能 - クローズドミーティング
– 本人のみ参加可能 - ダブルクローズドミーティング
– 男性本人のみ参加可能 - 女性ミーティング
– 女性のみ参加可能(患者でなくともよい) - ビジネスミーティング
– 自助グループの運営方針について話し合う場
もし初めて参加するのであれば、クローズドミーティングをおすすめします。
同性の方が安心するという人は、ダブルクローズドミーティングか女性ミーティングに参加するといいでしょう。
断酒会が行っている主な活動
断酒会の主な活動は、例会と呼ばれる20人ほどで約2時間、患者が自分自身の酒害体験(酒が原因のトラブル・失敗)を話し、それを聞くことです。
例会以外にも、
- アルコール依存症についての学習
- AAがまとめた酒害体験の読み合わせ
- 近況報告
などがあります。
近況報告は最近の出来事をただ話すだけです。
基本的に断酒会は「話しっぱなし、聞きっぱなしOK」な集会なので、気を張らなくても大丈夫です。
断酒会は本来、アルコール依存症の人だけが集まる井戸端会議のような、他愛のない話をする場なのです。
断酒会にかかる費用
一般に、断酒会は会費を徴収しません。
かかる費用といえば、飲み物代や配布用の資料代のために使われる数百円程度のもので、しかもそれらの費用の支払いは任意です。
全国にある断酒会一覧
全国には約530の断酒会関連の組織が存在します。
とはいえ、公式HPを公開している組織はそう多くはないため、HPを検索しても出てこなかったり、URLが無効であったりする場合があります。
確実なのは病院においてあるアルコール依存症患者向けのパンフレットや、各市町村の公式HPから調べてみることです。
近年、日本各地で依存症問題への取り組みが活発化しており、市町村や県のHPで依存症対策のための活動報告を載せている場合があります。
また全日本断酒連盟やAAの公式HPから各地域で行っている活動場所や時間帯を調べてみるのも良いでしょう。
全日本断酒連盟(各地への活動は「関連リンク」から)
AA(「AAメンバーへ」から「各地のミーティング会場」を参照)
ただし、断酒会は基本的に身内向けの集会なので、時間や場所の変更などについての情報を公開していない場合があります。
事前に電話などで確認を取っておくと行き違いにならずに済むので、初めて参加する場合は予め連絡を取っておくと良いでしょう。
まとめ
「断酒会はアル中の酷い奴が行くところだ」といった偏見を持つ人がいますが、それは間違いです。
断酒会は症状の重さに関わらず、心から自分の病気を治したいと思う人が集う場所です。
また、自分の体験談を他人の体験談と見比べても意味はありません。
断酒会の目的は不幸自慢をし合ってマウントを取ることではありません。
自分の問題をこれからどう解決していくかのヒントを、他人の話から得るための建設的な場所です。
または、単純に自分の気持ちを吐き出すための場所です。
アルコール依存症患者それぞれの目的で有意義に利用される断酒会は、患者にとって大切な居場所でもあります。
もし、自分の問題を抱え込むことに疲れてしまったら、一度断酒会へ参加してみてください。

